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なんでここにいるんだろう。
東園の勤務先ははこのあたりじゃなかったような。
遠目からでも東園のスタイルの良さと端正な美貌が見てとれる。家で見るのとは違い、人波で見ると目立つ。モテるのも仕方のないなと実感してため息を溢す。
信号が変わると東園が駆け出し康平と陽向は顔を見合わせ東園が渡るのを待った。
「会場はあっちなんだよね、行かなくて大丈夫?」
「横断歩道の真ん中で話は出来ないだろ。すごい勢いじゃん」
確かに、と思いながらあっという間に近づいた東園を見る。
「東園、久しぶりだな」
「陽向、今帰り? 俺ももう終わったから一緒に帰ろう」
康平と東園は同時に口を開いた。康平は東園を見ているけど、当の東園は陽向をじっと見下ろしている。
こんな時間に仕事が終わることもあるのか、と思う。やっぱり他に帰る家があるのかもしれない。
「どうしてここにいるの? 馨の職場ってこの辺だっけ?」
「いや、三浦さんに連絡もらったから。ちょうどこの辺に来ていたんだ」
確かに三浦へ、友人と会うと知らせたが、場所まで書いただろうかと首を傾げる。いや書いた覚えはない。
「仕事で? え、じゃあ偶然?」
「んな訳なくない?」
康平が横から茶化すように言うとようやく東園が陽向から康平へ顔を向けた。
「久しぶりだな、佐伯。中学以来だ」
「やっと気づいてくれたか、ほんと久しぶりだな。あの時からいい男だったけど三倍増しだな、陽向」
「ああ、うん」
陽向が頷くと東園は陽向に顔を向け「褒めてくれるのか、ありがとう」と笑みを浮かべ頬を撫でた。え、ここは外なのに、と思うけれど東園の手が温かくて払うのを忘れていた。信号が変わり周囲の人々が移動し始め、陽向は改めて気恥ずかしさに襲われた。陽向が払い退ける前に東園はすっと手を引いた。
「さー、邪魔そうだし俺もう行くわ。じゃ陽向、頑張れよ」
「あ、うん。康平また」
横断歩道を渡り始めた康平に手を挙げると同時に「さあ行こうか」と東園が陽向の肩に手を回して歩くように促す。
「駅はあっちだけど」
「そうだね。今日はタクシーで帰ろう」
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