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東園は手を挙げ通りを流していたタクシーを捕まえ、陽向を押し込みあとに自分も乗り込んだ。自宅を告げ、車が進み始めると東園は陽向の手に触れ指を絡めてきた。
誰かと付き合う経験がないせいか陽向は公共の場でさっきみたいに触られたり手を繋いだりされるとおかしく思われないかつい心配になってしまう。特に、Ωは中性的な見た目だが、陽向は見た目だけだとΩと気付かれにくいと思うから。
ちらっと運転中の運転手を見る。当然だろうが運転に集中していて、前に視線を向けている。陽向はその様子にほっとして、今のうちにとゆっくり指を動かし抜こうとする。しかし東園は絡めていただけの指に力を込めて陽向の手をぎゅっと握った。
タクシーが動き出して東園は口を開く事なく、手を離して欲しいと頼みたくて陽向が隣を見ると前を睨むようにじっと見ていて、話し掛けられなかった。
仕事で何かあったのかな、と思いつつ陽向は車窓へ目を向けた。
今日話し合うべきだろうか。
今まであまり見たことがなかったが、今日の東園は虫の居所が悪そうだから明日がいいか。
これからどうしたいか、よく考えてみる。
陽向は東園が好きだから一緒にいたいし、一緒に子供を育てたい。
でも東園がたくさんのΩと関係を持ち続けるなら、東園と共にいるのは無理かなと思う。
そうなら実家に戻り、親の手を借りながら仕事と子育てを頑張る。手が借りられなかったら、一人でもやる、やるしかない。
そうだ、自分次第なんだなと強く思う。堕胎はしない。絶対しない。
そう決めたらなんだか、もやもやしていた気持ちが晴れていく。
膝に置いたバックのなかでスマホが通知を知らせるため震えている。
バックを探ろうと手を離そうとするけれど動かせば動かすほど東園の力は強くなり、「あの、」と話しかけても無視された。
もういいやと片手で取り出し見ると康平からで、変な動きをするくまのスタンプがガンバ!と笑っていた。
こうなったら頑張るしかない。
迷いがなくなりスッキリした気分だ。しかも画面のくまは見れば見るほど面白い顔をしていて、陽向は笑みを浮かべる。
スタンプを返そうとしたところで、腕を強く引かれ身体がぐらりと揺れる。
「え」
東園にもたれ掛かった陽向が慌てて身体を起こそうとすると、東園は更に陽向の腕を自分側へ引き寄せ陽向をシートへ押しつけた。そして陽向の顎を押さえ唇を合わせた。舌をねじ込み乱暴になかをかき回される。
「ん……ぅ、っん」
こんなところで。
陽向は東園の胸を押そうとするが、近くで感じる東園の匂いに頭がくらくらして上手く力が入らない。
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