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下から東園の足を蹴り上げ陽向は一瞬ぐらついた東園の身体を押しのけ階段を駆け上った。走っていいかどうか聞いてなかったなと思いながら陽向は陽向の部屋を目指す。
とりあえず東園から離れよう。ノブに手を掛けた瞬間背後から腕が回り、そのまま抱え上げられた。
「なっ、ちょ、降ろしてっ」
腕が腹に食い込んでぞっとする。暴れる陽向をものともせず、東園は次のドアを開き中へ入っていく。
「いっ、」
足先がドアの縁に当たってじんと痺れる。身体を震わせた陽向を無視して東園は部屋を進んでベッドへ陽向を放り投げた。
「かおるっ」
ベッドに倒されたから衝撃こそそうないが、さっきからの乱暴に無性に腹が立って素早くうつ伏せから仰向けに向き直ると陽向に乗り上げた東園を睨みつける。
「なんなんだよ、いい加減にして」
顔を叩こうと上げた陽向の腕を掴み、東園はベッドへ強く押しつける。両手とも掴まれ陽向はもがく。
「どうして、昨日までの陽向は俺を拒否しなかった」
「それはっ」
お腹に赤ちゃんがいるから。
言葉に詰まった陽向を目を細め見下ろし東園は「もう嫌になったか」と呟いた。
「好きな男と会って、俺とするのが嫌になったんだろ」
「は?」
「佐伯とやってきたか?」
声を荒げるでもなく、淡々とそんなことを言う東園を陽向は目を見開いて眺める。
陽向の感覚では、身体の関係のある人間が複数同時にいるなんて考えられない。しかも相手は既婚者の幼なじみだ。そんなにモラルのない人間に見えるのだろうか。自分が何人もΩを囲っているから、陽向の事もそうだと思ったのかもしれない。一緒にされては堪らない。
「……それ、本気で言ってるの?」
陽向がそう言うと、東園はぐっと眉根を寄せ陽向から離れベッドの端に腰掛けた。両手で顔を覆い肩を落とした東園は「そんなはずはないと思ってる」と吐き出した。
「でも、ゼロじゃない。佐伯とならあるかもしれない。……俺の運命なのに、やっと近づけたのに、あいつは」
顔は見えないが、声はまるで泣いているようで、陽向はゆっくり身体を起こしたあと東園の隣に座った。床が冷えていて降ろした足先がひやりとした。
「馨って、康平のこと嫌いだったの?」
康平がそう言っていたことを思い出した。東園は家庭のある康平が陽向と関係するような男と思っている。その誤解は解いておきたい。
「好きに、なれる要素がないだろ。陽向の隣にずっといて、運命のつがいって言われていた男だぞ」
「……周りが勝手に言ってただけだよ。それに、僕は、僕は、馨が好きだから他の人としないよ」
「ん? いまなんて言った、もう一回、頼む」
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