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陽向の話を聞きながら東園は目をむき大きくなる頭を振った。
「まさか、そんなことない」
「でも、それからネットでも検索したけど、色々出てきたよ」
表情を硬くして東園は黙り込んだ。
「僕の発情期に付きあってくれたのが始まりなんだから、別に誰と付き合っててもいいんだけど、……ええと、いや、結果良くないんだけど」
「……陽向」
「僕は好きになったのも、いっ、いろいろしたのも馨が初めてだからその、馨を別の人とシェアするのはちょっと、出来るか分からない」
だからとりあえず返す、とリングを載せた右手を東園へ差し出した。
「αのお金持ちはたくさんのΩを囲う習慣があるって聞いたことがあったけど、昔話かと思ってた。あ、別に批判しているわけじゃなくて、そうして生き繋いだΩがいっぱい居たんだろうから、それはそれでいいと思うんだけど、僕は難しいかなって思うだけで」
手のひらから一向に無くならないリングと、その向こうの呆然としている東園。東園はしばらくフリーズしていたがああ、と声つきのため息を零して陽向に顔を近づけた。
「俺と初めて会ったときのこと、覚えてる?」
「へ?……ええと中学の、入学式? かな」
今どうして、そんなことを聞くのか。陽向が首を傾げるとそんな陽向を見ていた東園が苦笑する。
「陽向とはじめて会ったのは、俺が姉と母と、母の実家に帰省した時だ。風邪を引いた姉が、その日行くはずだった小学生夏休み料理教室に代わりで参加してそこで陽向と同じ班になった」
「料理教室……」
小学生の頃に会っていた、覚えがない陽向はその頃を思い出そうとする。
確かに五年生の夏休み、母の友達が開催した料理教室に誘われていやいやながら行ったけど、確かに班での作業だったけど。そういえば、背が高くて元気の良い男の子がいたような。
「覚えてないよな、俺はそこで陽向を見て、あ、運命のつがいがいたって思ったよ」
まさかそんな昔に、驚きで陽向は目を瞠る。
「え、そんな、小学生の時に? そんな、そんなに早く分かるものなの?」
「自分では間違いないって確信してた。だから陽向がその時中学受験するって
言ってたから俺も受験した。どうしてもその学校に行きたいからって」
「ええっ」
そのためにわざわざ陽向の地元に越してきたのか。自分のせいでと思うと血の気が引く。意図もなにもないが少年には大きな選択だっただろう。よく周りも許したものだと思う。
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