運命のつがいと初恋 ①

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「ご飯食べたら東園は一旦休んでね。凛子ちゃんに付いてるから」  凛子は寝てしまったがまだ薬を飲んでいない。薬を飲んで一晩寝たあと、凛子の熱が下がったのを見届けたら家に帰ろうと思う。 「いや、ゲストルームが二階にあるから三田村が先に休んで」 「……それじゃあ僕が手伝いに来た意味なくない?」 それもそうかと東園はばつの悪い顔をして首の後ろをかいた。その様子がなんだか面白くて思わず笑ってしまった。眉根を寄せた東園が口を開いたとき、インターホンが鳴った。 「ああ、飯か」  そうだった。飯と聞くと腹が減っているような気になってくる。良いタイミングだったと思いながら遅い夕食となった。  チャイムで起きなかった凛子は食べている間も起きてくる様子はなかった。しっかり眠れているようだ。  夕飯はおごりとの事なので食後、せめて食器を洗うと申し出た。  しかし東園家にはシステムキッチンに内蔵された食洗機があり、陽向の仕事は軽く汚れを落とした食器を中に並べていくだけで良かった。ソファにでも座ってくつろいでいたらいいのに、東園は陽向の隣に立ってじっと作業を眺めている。視線が少々うざったい。 「今のうちにシャワーかお風呂でも入ったら?」 「そうだ、風呂が沸いてるんだ。三田村が先に入ってくれるか」 「いや僕はいいよ。着替えもないし」 「まだ使っていないシャツも下着もある。あ、うちの母親用のだからサイズも合うと思う」  すべての食器を並べて終わったのでスイッチを入れる。グオンと稼働音のあと水音が続く。家族の多い家庭だと家事時間が大幅に減少しそうだ。 「お母さんのはさすがに小さいし、」  下着とはドン引きだなと思いながらと隣の東園に目を向ける。 「えっ、と、誤解しないでほしいんだが俺の母親はΩの男性だよ」 「え、ああ、……そうなんだ」  陽向は微笑む東園を見上げたまま固まった。  αもだが、Ωは更に珍しく陽向は自分以外の男性でΩ性の人間を見たことがない。陽向の母親はΩだが女性だからつい、母親と聞くと女性を想像してしまう。近くに本当の同性がいる、陽向の頬が熱くなる。 「ひっ、東園のお母さんってどんな方なの?」  思わず噛んでしまった。笑みを深めた東園が陽向を見つめ返す。 「その話は風呂入ってからにしよう」 「え、」  東園に背中を押され、二階へ上がる階段の奥、脱衣場へ入れられてしまった。 「鍵は閉めるなよ、入ってる間に着替え置きに来るから」 「あ、でも、僕は別に、」  目の前でぴしゃりと引き戸を閉められた。陽向はたっぷりスペースの取られた脱衣場で一人首を傾げた。いつのまにやら入浴することになってしまった。
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