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「ランブ-」
「そう、ランブ-だよ。凛子ちゃんにあげるね。頑張っておかゆちょっとでも食べようね」
凛子は陽向の渡したランブ-の折り紙を受け取るとしげしげと見つめた。
「ひーたんああがとう」
赤い頬が緩んでいる。子どもが喜んでいると陽向も嬉しくなる。
「さあご飯にしよう」
東園がランブ-折り紙を握りしめた凛子をひょいと抱き上げ幼児用の椅子に座らせた。
椅子に食事用の台が取り付けられるタイプで背が猫のデザインになっている。
冷ましながら凛子の口にスプーンを運ぶ東園に対して、凛子はスプーンの端を舐めるほどの量しか口に入れさせない。ぐずる凛子を一緒になだめるが食欲がないのだろう、スプーン一杯もなくならない。
その様子を見ながら陽向は少し反省していた。つい東園をαだから、むかしこんなことを言われたから、と嫌なやつだろうと斜めに見ていたが目の前の東園は我が子に少しでも食べてもらおうと必死な普通の父親だ。
あれから随分時間が経っているのだ、東園も変わったのだろう。こちらも気持ちを改めないと、と思う。
なんとかお椀の半分がなくなったところで、今度は薬に手間取っている。
どうしても飲ませたい父親とどうしても飲みたくない子のバトルは熾烈を極め、東園の表情に疲れが見え始めた。
「ちょっと薬もらっていい? あとお皿借りるね」
「え、ああ」
陽向は粉薬を受け取ると食器棚から可愛らしい柄の皿を取った。買ってきたプリンを皿にのせ凛子に見えないように背で皿を隠しつつ手前だけ崩し粉を隙間に流し込んだ。
「はい、凛子ちゃんご飯食べられたご褒美のプリンだよ。ちょっとだけ食べてみる?」
陽向は凛子に崩れていないプリンの角をちょっとだけ掬うと凛子の口元へ持って行った。近づいてきたスプーンにつられるように凛子が口を開く。パクリとプリンを口に入れると凛子の口元が緩んだ。
「プリンおいしいかな」
陽向が問いかけると凛子は小さくうなずいた。今度は薬を挟んだプリンの番だ。食べてくれるといいのだけれど、期待を隠し凛子の口元にスプーンを持って行くと、凛子は疑うことなく口を開けプリンを食べた。味に違いがあるほどは挟んでないけれど、薬の存在がばれたら、と思うとひやひやする。凛子は気がつかなかったようですぐに口を開けた。まだ欲しいと催促する凛子に薬を挟んだプリンをせっせと運び、あっという間にプリンはなくなってしまった。
「助かったよありがとう。さあごちそうさまをしたら凛子はもう寝ような」
手を合わせた凛子を椅子から抱き上げた東園は、歯磨きしなきゃなと凛子に優しく話しかけながら洗面台の方へ消えた。
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