運命のつがいと初恋 ①

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 使った皿を片付けていると戻ってきた東園は抱えた凛子を和室の布団へ横たえた。  水音がうるさいと寝付けないかもしれないので食器洗いは後回しにして陽向はリビングの電気をそっと消し、テレビも消した。二人が入ってしばらくのち、東園だけがそっと和室から出てきた。寝かしつけは成功したらしい。しかし、リビングの電気はつけられないのでダイニングとキッチンで明かりを採るけれど、白色ではなく黄みがかった電球のせいかうす暗く感じる。 「お疲れ様」 「薬ありがとう。さすがだな。職場でも飲ませる事がある?」  陽向の対面に腰を掛けた東園は息をついて髪をかき上げた。 「いや、うちの幼稚園にはパートの看護師さんがいるから、僕たちはしないよ。姉の真似をしただけ。これ半分の確立で失敗するって言ってた」 「成功して良かったよ」  苦笑した東園も寝た子が起きたら困ると思っているのだろう、ずっと小声だ。東園も疲れたようで、ふっと大きく息をついた。ポケットからスマホを取り出し時間を確認するともう十時前だ。 「東園、お風呂入って休んだらどう、僕が凛子ちゃんに付いてるから」 「……今日は泊まってくれるよな」  テーブルに肘をついた東園がじっと見つめてくる。風呂にまで入れておいて何を言い出すのかと思う。 「風呂に入ったのに帰れって?」 「まさか。良かった、絶対帰るって言われたらどうしようかと考えてた。じゃあ風呂行ってくるからキッチン、冷蔵庫の中、好きに使って」 「分かった」  東園が行ったあと陽向は和室のふすまの隙間から凛子の様子を窺った。静かな部屋に凛子の寝息だけがすうすうと聞こえる。よく寝ているようで安心した。陽向は暗いリビングのソファに座る。部屋が薄暗く静かなせいか本日の疲労が思い出したように肩にどっとのしかかってくる。めまぐるしい一日だったなと思う。  中学の同級生と再会し、勤めた幼稚園を辞め、再会した同級生の家で病児の看病を手伝うなんて、昨日の自分が聞いたら薄笑いを浮かべそうな展開だ。でもおかげで退職の切なさが薄らいでいるけれど。  これから、本当にどうしよう。  陽向はソファの上で膝を抱えた。居住地域が決まっている訳ではないが、都心はαが多く、郊外に行けば行くほどβが増える。単純に土地価格の問題だ。    慣れた場所なので引っ越したくはないけれど転職先は郊外になるだろうと思う。そうなるといつかは引っ越しを考えなくてはならない。いやその前に就職先を見つけないと。だんだんと目蓋が重くなる。ここはうちじゃないし、いつ凛子が起きるか分からないから寝てる場合じゃない。分かってはいるけれど、一度目を閉じると開くのが億劫になる。ちょっとだけ、東園が来るまでちょっとだけ。物音がすれば気がつくだろうと思いながら陽向は眠りの波にのまれていった。
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