運命のつがいと初恋 ①

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「上に部屋があるから遠慮せず休んで欲しいんだけど、交互にしようか。俺が寝ないと三田村も休みにくいだろ。日中、普通に仕事があったのに来てもらって。本当にありがとな」 「いいよ、同級生のよしみだし。そうだね、交互に休もう」  そういえば凛子はパパ、やお父さん、ではなく、かおちゃんと呼んでいた。 「かおちゃんから寝てね」  ごほっと東園がえずいて、陽向は慌ててごめんと謝った。あまりにも可愛い呼ばれ方だったので真似してみただけだったけれど、随分驚かせてしまったようだ。口元を抑えて二度ほど咳き込んだ東園は大丈夫、大丈夫と頷いた。 「ほんとごめん、かおちゃんって呼ばれていたから、つい出来心で、」 「いや、ちょっと驚いただけだから」  ふーっと息を吐いたあと「三田村、俺のこと昔凄く嫌っていただろ? だからそんな風に呼ばれるとは思わなかった」と苦笑した。いや顔は確かに笑っているが目が笑ってない。 「い、いや、別に嫌っていたなんて事ないよ。ただちょっと、近寄りがたいか感じだっただけで」  あの当時東園を嫌っていたかと聞かれれば、嫌いと言い切るほどの感情はなく、良い印象も持っていなかった。好き嫌いで言えば、嫌いよりだったと思う。だとしても、本人を目の前にしてうん、まあまあ嫌いだったよ、と言えるほどの胆力を陽向は持ち合わせていなかった。 「嘘だな。話しかけようとして、避けられた記憶があるからな」 「ちがっ、……に、苦手だなって思った事はあったかもだけど、別に嫌いってまでは、なかった、し」 「今日話してみてもやっぱり苦手だと思うか?」  東園が陽向の目を真っ直ぐ見つめてくるので少々居心地が悪い。陽向は大きく首を横に振って「いいお父さんになったんだなって、感慨深く見ています」と言った。 「いいお父さんな」  少し笑った東園はなにか言いかけて後頭部をがりがりと掻いた。 「ありがたいんだが、俺は本当の父親じゃないんだ。結婚したこともない。でもそう見えているなら嬉しいよ」 「え、ああ、そう、そうなんだ」 なんとセンシティブな告白だろう。陽向は言葉をゆっくり選び応えた。 「凛子ちゃんも懐いているし、いいお父さんに見えたよ。ああ、だからかおちゃんなのか」  東園が頷く。 東園の子どもじゃないとしたら、一体どんな事情があるのか。幼稚園に勤務して陽向は、一般家庭と一言で表されるものの中身は千差万別だと知った。自分の知る家庭の形とは違うけれど幸せに暮らしている人達をたくさん見てきた。     何も聞くまい。東園と凛子が幸せならそれできっといいのだ。 「そこで陽向先生にご相談があるんだが」 「相談?」   陽向は首を傾げる。東園は神妙な面持ちで口を開いた。
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