運命のつがいと初恋 ①

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「あの、レタスでもちぎる?」  頷いたのでレタスと勝手に取り出したざるを渡した。 「大きさはどのくらい?」 「自分が食べやすいくらいでいいと思うよ」  東園はまた神妙に頷いて定規で測ると言い出しそうな真剣さでレタスをちぎり始めた。  朝食を作ると言った陽向だが実際は簡単なものしか作ったことはない。ざくざく切った野菜ととソーセージを鍋に入れ煮込んでいるうちに食パンを焼き、目玉焼き、焼いたベーコンを皿に盛りダイニングテーブルに運んだ。トマトを切ったところでレタスの様子を窺うと、ようやくちぎり終わったらしく、東園にボールに盛り付けるようにお願いした。最後にスープの味を塩こしょうで調えて終わりだ。 「今のうちに食べちゃおう。プロじゃないから味は保証できないよ」 「いや、美味しそうじゃないか。これだけ出来れば十分だよ。三田村はすごいな」  褒められるとちょっと気分がいい。 「美味しいよ、ありがとう」  料理とは言えない料理だけど、満面の笑みを向けられて作った労力は霧散した。普段、遅刻しないようにあっという間の朝食だけど今日はゆっくりだ。 東園はいちいち感想を伝えてくれるが本当にただ焼いただけ、煮込んだだけなので恥ずかしくなってくる。  食べ終えてほどなく凛子が泣きながら起きてきた。  抱きあげるとその身体は熱く陽向があやしている間に東園が水分を取らせる。 「まだきつそうだね」  お白湯を嫌がる凛子に紙パックのリンゴジュースを飲ませながら東園が頷く。  額をそっと触り「熱もまだあるな」と呟いた。 「抱っこ変わって」  飲み終えた紙パックをゴミ箱に捨てた東園に凛子を預ける。 「凛子ちゃん、お腹はどうかな? なにか食べるかな」  鼻が赤く、目は潤み目の周りの皮膚もうっすら赤い凛子がいやいやと首を振った。 「そうかー、でも病気をやっつけるには元気もりもりにならないといけないんだ。凛子ちゃんが食べられそうなもの、教えてくれる」  凛子の顔をのぞき込むとやはり首を振る。 「じゃあアイスとか冷たいのは食べられるかな?」 「アイス」  頷いた凛子の声がかすれている。喉が腫れてしゃべるのが億劫なのかもしれない。 「そっか」    凛子の頭を撫でていると東園が「バニラのカップアイスならあるはず」と頷いた。  前回は陽向が口に運んだが今回は東園が担当した。  同じ手が通じるかなとドキドキしながら薬をサンドしたアイスを凛子の口に運ぶ東園の手元を眺める。一口目、全く薬の存在に気づくことなく飲み込んだ凛子は五口目まではなんとか食べたがそのあとは要らないと首を振った。  東園はもうちょっと食べさせたかったようだが、それ以上は無理のようで泣かないうちに陽向は凛子を抱き上げた。少しでも薬が身体に入って良かったと思う。  外が明るくなってきたのでカーテンの隙間から外を覗く。この邸宅が四軒は建つほどの広い庭に、小さなブランコと三輪車が置いてある。
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