運命のつがいと初恋 ②

3/57

3292人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 凛子の通うこぐま幼稚園は食育を取り入れている幼稚園で、陽向も名前は聞いたことがあった。  パンフレットにあった園の特色として縦割りのクラスを採用し、自由に遊ぶ、遊びから学ぶ、とあった。年間の予定を見ても校外学習も多く楽しそうな印象だ。  東園はなんとなく、幼児期からしっかりお勉強をさせる園に行ってそうな感じがしていたので出身園が自由な感じで意外だった。  お勉強でも、遊ぶでも、凛子が楽しく登園出来るならそれでいいと陽向は思う。      「そういえば明日はツリーを買いに行くんですよね?」 「そうなんですよ。やっぱりあのあたりに置くのがベストですよね」  ソファの背後、ダイニングの窓近くを指す。  数日前たまたま見ていたテレビにクリスマスマーケットの様子が流れ、隣に座っていた東園にここにクリスマスツリーはあるのかと尋ねてみたら、ないと応えた。  クリスマスツリーがあったら季節感も出るし凛子も喜ぶかもしれないね、と軽い気持ちで呟いたところ、東園はすぐに、じゃあ買おうと言い出した。そしてエクステリアかインテリアの専門家に発注しよう、とスマホをいじり始めた。  そんな東園を見ながらクリスマスツリーを作って貰うという発想がなく、そういうものなのか、と一旦感心した。  しかし、年に一度、数週間飾るためだけに高価な買い物をさせていいのか、東園が頼もうとしているものは本物の木じゃないのか、クリスマスが終わったあとどこに収納するのか、収納がなくて捨てなければならなくなったら……、など不安材料が次々浮かんで、言い出しっぺの陽向は次第に血の気が引いてきた。  慌てて十二月に入ったいま、頼んでも絶対間に合わないよと止めたところ、じゃあ市販のツリーを買いに行くからついてきて欲しいと頼まれた。  市販のツリーならまだ、陽向でも買える値段だろう。ほっと胸を撫で下ろした陽向はもちろん行くと返事をしたのだ。  一応陽向は土日休みで、好きなように過ごしていいことになっている。しかし東園家で一緒に暮らしているので、結局平日と変わりなく過ごす事が多い。  最初はどうなることかと思ったけれど、東園家の生活とバイトは嫌だと強く思う場面がなく、陽向に合っているようだ。  部屋を貸してもらい住み着いているので、今まで一人暮らしをしていたマンションをいつ解約するのか東園に再三聞かれるが、今のところ解約は考えていない。  今はもったいないかもしれないが東園の両親が帰国したら陽向のバイトは終わると思うし、東園が結婚する可能性だってあるだろう。  いつまでここにいるかは分からないのでやっぱり自分の家はあった方がいい。  東園から幼稚園勤務時よりいい給料を貰ってしまったので維持が出来る状況なのもある。 「ちょうどいいですね。通る邪魔にならない位置ですしね」 「出来れば大きいのがいいけど、終わったら保管するところがいるからなあ」 「お部屋はいっぱいあるんだし、大丈夫ですよ」 「あ、今度物置買うって言ってました。でもクリスマスツリーって物置に保管でいいのかなあ」 「物置って庭に置くあれですか?」  陽向が頷くと同時に洗濯機が終了音が聞こえてきた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3292人が本棚に入れています
本棚に追加