運命のつがいと初恋 ②

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 よっこいしょと三浦が腰を上げ、陽向はこれから凛子の帰宅まで自由時間となる。  が、働き以上にお給料を貰っている気がして出かける用事がなければ三浦の手伝いをしていることが多い。  今日は定期検診に行って抑制剤を貰うから三浦の手伝いは出来ない。ゆっくり行ってきて、と言われたので病院ついでに自宅に戻って郵便の整理をしようと思う。病院から自宅まではバスで約10分ほど、わりと近い。  ここでの陽向の部屋は東園の隣で、八畳ほどの広さがある。  ベッド等東園に聞いたとおり一通り揃っていて最初に東園の車で身の回りのものを運んで以来、帰宅していない。そろそろなにか問題が起きていないか、確認に行きたいと思っていたのだ。 「あら、やっぱり今日病院ですか?」 「はい。予約変更できなくて」  Ωは定期受診を国から定められていて個人個人の体調によってひと月から半年の間で検診を受けなければならない。陽向は今、三月に一度受診していてそれが今日だ。  先週夕飯のときその話をしたら、東園が土曜日に変更できないかと言ってきた。土曜日なら送って行けるからと。  Ωの検診は担当機関が多くなく、予約を変更すると数ヶ月先になってしまう。今から変更は難しいと説明したものの、東園がどうしてもというから一応変更は可能か聞いてみた。返事はやはり、変更後年内の受診は難しい、翌年になるとのことだった。  東園は伸ばして欲しそうだったが笑い飛ばした。そんなに先になっては抑制剤が持たない。 「自宅にも寄ってきますので、よろしくお願いします。なるべく早く帰りますね」 「ああ、仰ってましたよね。こちらは大丈夫ですので心配要らないですよ。もしかして引っ越しのお片付けですか?」 「違います。郵便の片付けに行くだけ。ありがとうございます、いってきます」 そう、まだなの、と残念そうに言われ苦笑する。  三浦に見送られ外に出ると思ったより寒くて吐き出した息は白かった。 Ω検診は特に問題なく、受診を終えた。今まで一度も問題があったことがなかったので、いつも通りだ。  抑制剤を貰い時計を確認すると、もう正午を超えていた。  自動ドアの外へ出ると、オーバーサイズのウールコートにタータンチェックのロングマフラーをぐるぐる巻いている陽向でもぞくっと震えた。  ここのところ急に寒さが増した。  郵便整理ついでに陽向が持っている中で一番暖かいダウンも持ちだそうと思う。  いつも自宅から検診の病院まで自転車で来ていたから、バスに乗るのもわたわたしてしまう。  最寄りのバス停を確認して乗り込んでも慣れないから不安で、二度、車内掲示の路線図を確認した。  今まで自転車で事足りる生活だったから電車もバスも乗り慣れていない。  目的のバス停へ無事到着し、陽向は自宅に向かって歩き出す。  バスの中は暖房が効き過ぎていた。  ここのところ東園家にいたせいで、自宅付近の風景が少し懐かしく感じ、自分でも可笑しかった。  たった数週間なのになと思いながら街路樹の落ち葉が風に舞いかさかさと音を立てる横を歩いて行く。  たった数週間とはいえ、郵便は結構溜まっているだろうなと思う。  また、変な手紙が入っているかもしれない。  近づくにつれ気が重く足取りも重くなる。  
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