運命のつがいと初恋 ②

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「発情期がないってことか?」 「ううん、発情期は多分あるけど微熱が出るくらいで生活に全く問題ないんだ。仕事も休んだことない。Ωのレベル、なんてあるのか分からないけど、そういうのが低いんじゃないかな。普通はΩってαが分かるって言われてるけど全然分からないんだよね。ま、自分としては生きやすいからありがたいけど」  東園は難しい顔で前を見ながらそうか、と呟いた。  聞かれた事に答えながら、こんなことまですらすら話す自分に自分で驚いている。康平とも話した記憶がない。いや、康平はそんなこと聞くような奴じゃないので聞かれた事がないだけだろう。ほんの数週間なのにずいぶん慣れたものだと思う。  暫く考え事でもしているのか黙っていた東園だったがまだ自宅ではないのに車を駐車しはじめた。 「ここどこ?」 「行けば分かるよ」  にっと笑った東園に子供っぽいこと言うんだなと思う。  店なら駐車場に看板があるから分かりそうなもの。しかし車から降りて見回すけれど、看板も店もない。住宅街にあるただの駐車場だ。 「こっちだ」  東園が指したのは駐車場奥の生け垣だった。東園について歩き始める。生け垣は一部隙間がありそこから大人二人は並んで歩けないほどの小道が続いていた。  平石が配置された歩道に、草丈の低い可愛らしい花が咲いている。その奥にらさまざまな種類の樹木が並び立っている。紅葉した葉が数枚残った枝ばかりの木もあれば青々茂る木もある。その可愛らしさにわぁと声を上げた。 「ファンタジーっぽい道だね。先に魔女の家とかありそう」 「魔女の家はないけど、陽向は喜ぶんじゃないかな」  前を歩く東園の声が弾んでいる。なんだろう。自分が喜びそうな場所って。  小道は東園で塞がっていて先まで見通せない。  ふと東園は首もとが寒そうだなと思う。陽向はマフラーをしているけど、それでも今日は寒い。  先が開け東園が立ち止まった隣に並ぶと木々に囲まれた小さな家があった。  レンガ作りの家を大小様々な種類の草木が囲んでいる。自生しているようだれどきっとそう見えるように配置されているんじゃないかと思う。北欧のハウスカタログに載っていそうな可愛らしさにため息が出る。 「うわ、思った通りの感じだ。いいなあ、こんな家に住んでみたい」 「え」  随分と身の詰まった「え」だった。隣を見ると東園は陽向と可愛い家を交互に見たあと目を瞬かせた。 「だって可愛くない?」 「いやでも、うちは新築だし、家具家電揃ってるから暮らしやすいと思うけど」 「……見た目が可愛いから、一日だけでもって話だよ。そりゃお宅の方がずっと暮らすにはいいと思うよ。なに競ってるの」  笑いながらうけるーと顔をのぞき込むと東園はきゅっと眉を寄せ「いこう」と歩き出した。  大股で先に行くし、ここ誰かの家なの、と聞いても答えてくれなかったので、からかいすぎたかもしれない。 「馨くん、ごめんて」  腕を引くのと東園が扉を開くのと、同時だった。ふわりと甘い香りが漂い陽向は東園の後ろから扉の向こうを覗き込んだ。
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