運命のつがいと初恋 ①

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 ただ、バッサリ振った奈々さんだが、感じるところがあったようだ。康平の告白から三年、離婚後隣県の実家に戻った奈々さんから連絡があり二人は付き合い始めた。  康平は医学部に進学、 働き始めるまで数年かかることで、大学を辞めて就職しようか と悩んだり、交際を公にしていち早く両親に紹介したがった康平と、慎重な奈々さんとのあいだで何度も話し合いというケンカがあり、そのたびに陽向は巻き込まれ大変だったけれど二人の付き合いはまあまあ順調だった。  しかし交際が始まって一年たった頃、奈々さんが康平の子を身ごもったことで両親に交際を打ち明けなければならず、佐伯家はしばらく荒れていた。  ただ佐伯のおじさんおばさんもαとΩなので、そういうお互いしか分からないαとΩの衝動があることは分かるそうだ。なんとか話し合いで丸く収まり、康平は学生ながら結婚し、奈々さんと最初の旦那さんとの子ども、舞ちゃんと近くの借り家で暮らし始めた。  せっかく医学部に進学し、父親の後を継ごうとしていたのだから学校を辞めずに済んでよかったと思う。 内輪の結婚パーティーでそう告げると康平はその分しっかり働かなきゃなと少し大人びた顔をしたのでちょっと笑ってしまった。  波乱の起きた佐伯家と連動する形で三田村家でもちょっとした混乱が起こっていた。  てっきり陽向と付き合っている、か、今後付き合って、適齢期が来たら結婚するだろうと思っていた康平が他の人と結婚することに陽向の両親、兄姉は驚いたあと、腫れ物に触るような感じで陽向に接するようになった。  日常的に仲のよいことをからかわれ、だんだんと反論もしなくなり聞き流していたので、どうやら家族は陽向が康平を好きなんだと勘違いしていたらしい。  陽向は康平を恋愛的に好きではないと、しっかり否定したのだけど家族はなんとか結婚相手を見つけてあげなきゃと次から次へとお見合いを持ってきて、辟易した陽向は大学卒業後地元に就職するという選択肢を捨て都内に残ることに決めた。  実際、男のΩと番たい人間がいるとは思えない。  男性のΩは中性的で容姿端麗な人間が多いと言われるが、一般男性と比べたらそうだというだけだと思っている。自分以外の男性Ωが身近にいないからなんとも言えないけれど、陽向自身は平凡な容姿だ。  可愛い女性はαβΩ問わずたくさんいる。広い世界の中、わざわざ男性のΩを選ぶ物好きはそういないと思う。 「参ったなあ」  パジャマを着ながらため息を零す。困っていてももう数日で職をなくしてしまう。  スマホで求人情報を見ながらベッドに転がる。     検索していくと、近くにはないけれど、乗り継げば行けるところは数件あった。ルームライトが眩しく目を細める。一番近くて通勤に一時間四十分、ただ職務上早朝出勤もあり、その際が間に合うか、間に合わないか際どいところだ。  スマホを消して目を閉じる。  実家に帰って、地元で転職先を探す手もある。  ここにいたい理由は特にない。でも田舎では感じ得ないこの埋没感は嫌いじゃない。  男なのに子供が産めるなんて、神様はどうして男のΩを作り出したのだろう。もう成人して数年経つのに、陽向は自分が良く分からない。  綺麗、可愛い、かっこいい、自分の美意識に照らし好ましい人の外見や、性格の良さや、優しさなどちゃんと受け取れるけれど、それからがどうしたらいいのか分からない。素敵だな、から好きになるまでに心が待ったをかけてしまうのだ。  この人を好きになっていいのか、Ωなんかに好かれて迷惑かもしれない、そんな事をうじうじ考えていたら結局、疲れて考えることを辞めてしまう。  陽向は恋をしたことがない。  立ち止まってしまっている陽向だから、他人に無関心でも生きていられるここが居心地良く感じているのかもしれない。  地元では、そうはいっていられないから。
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