運命のつがいと初恋 ②

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 デザートの後、リビングでお絵かきしていた凛子は東園に「風呂にはいろうか」と声を掛けられぐずることなく抱っこされた。  今日はウサギプリンのおかげでご機嫌がいいようだ。  陽向は凛子の部屋と自分の部屋から着替えをとり、脱衣所に置いた。  洗濯機の隣にある棚から凛子用のバスタオルを取り出しつつ、浴室から聞こえる凛子の歌に耳を澄ます。朝の幼児番組のオープニングテーマだ。上手に歌えているなあとほっこりしながらリビングに戻り自分のマグカップを流しに置いた。  凛子と東園が風呂から上がってきたら凛子はもう寝る時間だ。  そろそろかな、と浴室へ向かっていると「凛子がそっち行った」と東園の焦った声が聞こえたと同時に凛子が廊下に飛び出してきた。  ちょっと遅かったかと思いながらお湯でほかほかになった凛子をひょいと抱え上げ脱衣所に連れ戻す。 「りんちゃん、ちゃんとパジャマ着ないと風邪引いちゃうよ」 「ぶーんやー」  凛子は着替えの後のドライヤーが嫌いなのだ。分かっているけれどこの時期濡れた髪のままでは本当に風邪を引いてしまう。  陽向が凛子を着替えさせている間に東園は横で着替える。といってもいつも下着とスウェットのズボンだけ履いて凛子の着替えを待っている。  彼にはこの後重要な仕事がある。 「よし、馨いいよ、あ、」  着替えを終えた凛子を抱き上げて貰おうと声を掛けたら、それを合図とばかりに凛子が陽向の腕からするりと抜け、走り出そうとした。 「おおっと、凛子、ドライヤーがまだだぞ」  脱走の予測をしていた東園が先手を打っていたようで凛子は走り出す前に東園に抱き上げられてしまった。 「ああん」 「ごめんね、すぐ終わるから頑張ろう」  東園が暴れる凛子を抱いているうちに急いで凛子の長い髪を乾かしていく。 「りんちゃん、これ、音が嫌なのかな? それとも熱いのかな?」 「あちゅいの」  東園は顎を突っ張られて大変そうだ。  陽向も一度抱き手を経験しているが、陽向の力では抱いていられるものの右へ左へ身体ごと持って行かれ、乾かし手の東園がやりにくそうだった。よって今の作業分担に落ち着いたのだ。 「そっかー。でも冷たい風だと寒くなるから、あとちょっとだけ温かい風で頑張ろうね」  凛子の嫌いなこと第二位に輝く「櫛」を持ち一回だけだからと髪をとかす。  凛子の髪は細く、ちゃんととかないと蜂の巣みたくなってしまう。綺麗に髪をとかしたので今度は仕上げの優しい風をあててゆく。 「はい、いいよ」  本当はもうちょっとかけたいけれどこれ以上は無理そうだ。声を掛けると途端に凛子は東園の腕から飛び出してリビングへ飛んでいった。
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