運命のつがいと初恋 ②

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「えーと、りんちゃんのお母さんのことなんだけど」  東園が微妙に首をかしげる。 「その、幼稚園ってお迎えにお母さんが来る事が多いから、りんちゃんに自分のお母さんの事を今後聞かれる可能性があるかなって思って。もし聞かれたらどんな風に答えたらいいのか、聞いていた方がいいかなって思って。立ち入ったことだとは思ったんだけど」  トレーナーの袖口をいじりながらもごもご言う陽向に、東園は「立ち入ってくれて構わないよ」と少し笑った。 「そうだな。姉の事から話そうか。姉は今、うちの別荘で療養中だ。絵に描いたような優等生だよ。小さな頃から学業優秀、容姿端麗、しかも優しい心根の持ち主だ。弟の俺とけんかになったこともなかったな。大学卒業と同時に結婚したけど」 「結婚相手がダメダメだったの?」  真剣に聞いたのに吹き出した東園を睨む。 「ダメダメか、そうだな、ダメダメなのかな。姉はαで、相手は大病院の跡取り、彼もαだ。結婚後、しばらく子が出来なかった。別に急がなくても、と俺は思うけれど相手サイドはそう思っていなかったみたいで、プレッシャーもあったんだろうと思う。俺に愚痴をこぼすようなことはなかったけど。凛子が出来て、それはもう両家でお祭り騒ぎだったよ。無事生まれて、姉も彼も本当に幸せそうだったんだ。凛子の性別がβと分かるまでは」 「りんちゃん、βなんだ」  東園は頷く。 「……一般的にαとαでβは出来にくいと言われているだろ」  え、と思う。それって、凛子が両親の子ではないということか。 「で、出来にくいって言っても確か絶対じゃないよね。それに赤ちゃんは性別がちゃんと出ないこともあるって聞くしっ」 「そうなんだ。冷静に考えたらβが産まれても可笑しくないし、検査自体も早期過ぎて正確さにかける。でも姉はまず、βと浮気したんじゃないのかと疑われたんだ」  浮気と聞いてぎょっとする。  現実に恋愛の経験がない陽向には浮気など物語上の話でしかなく、仲の良い友人からもそんな大それた事をした、されたなどの話題を振られた事もない。驚く事しか出来ない自分が少々情けないが陽向はしばらく口を開けたままただ東園を見ていた。 「そんな、そんな事……、そんな事ない、んでしょ? 無実なのに疑われたらお姉さん可哀想だよ」  ようやく喋りだした陽向に、東園がゆっくりと頷いてみせた。 「勿論。そういう人じゃない。ただ、今まで優秀で他人に疑われるような経験がそうない人間だったから、心が折れてしまったんだ。うちの母が手伝いに行っていたときだったのが幸いだったんだが、突然凛子を抱けなくなった。凛子の声を聞くと、姿を見ると、吐き気が止まらなくなって。とにかく二人を一緒にさせておけない状況だったから凛子はうちの母が一時的に引き取ったんだ。今、姉のケアには旦那が付き添っている。姉の心が落ち着いたら、今後のことを考えようと話してはいるんだ」
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