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「ええと、そうか。馨ならきっと大丈夫だよ。僕はちょっとそういう経験ないからなんのアドバイスも出来ないけど、うん」
「陽向はなにについて大丈夫だと思ったの?」
顔は微笑んでいるのに目が笑っていない。
陽向は頬杖をついたまま顔をそらした。地雷を踏んでしまったんじゃなかろうか。
「ええと、ほら、馨かっこいいし、優しいし、その、片思いの相手にもきっと好かれるっていうか……あー、ごめん。適当に言ったわけじゃないけど根拠のない大丈夫だった」
「いや、ありがとう。陽向のおかげで少し大丈夫な気がしてきたよ」
小さく笑ってコーヒーカップを持ち上げる東園を見て、陽向はほっと息をついた。地雷とまではいかなかったようだが、次からは気をつけて発言しようと心に誓った。
「あ、そういえば馨達は年末ご両親のところに行くの?」
「年末? 年末か、もうそうか、すぐだよな。うちの両親はこちらの家に帰ってくると思う」
「そうなんだ。賑やかでいいね。じゃあそのあいだ僕も実家に帰るね」
え、と東園は表情を固くした。
「……そうか、帰るのか」
「うん、ご両親が帰ってくるなら家族水入らずで過ごさないとね」
「それはそうだが」
何をそんなに考えることがあるのか、東園は黙りこんだ。
陽向がいなくても東園の両親は凛子の育ての親だ、一緒にいてくれるならなんの問題もないだろう。ご両親が発つ前に帰ってくるから、と伝えると東園は眉根を寄せてそう、と呟いた。
「いつから帰省希望?」
「いつって、僕が決めていいならうーん自宅の掃除もしたいから、30日掃除して帰ろうかな。だから、12月30日から休みってコトでいい? 戻るのはそちらの都合でいいよ」
「……分かった」
東園は肩肘を付いてじっと陽向を見る。
「今でも毎年、同窓会があるのか?」
「大きいのはないね。仲いいグループで集まったりはするみたいだけど」
「陽向は佐伯と会う?」
「会うよ、隣だもん。あ、子ども達にお年玉用意しないといけない」
姪や甥、康平の子達を思い出しながら物にしようか、お金にしようか考えていると前から強い視線を感じて顔を向ける。
東園は目が合うと口元を引き上げたが具合が悪そうだ、顔色が悪い。
日中、人混みにいたから風邪でも貰ったのかな、と思う。陽向は厚めのもこもこパーカーを着ているけれど東園はスウェットだけだ。
「この部屋寒い?」
首を傾げた陽向に、東園は頭を強く振って寒くはないよ、と微笑んだ。
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