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お絵描きを止めて幼児番組のキャラクターと一緒に踊る凛子を見守りながら、微熱でももし風邪なら凛子に移したくないなと思う。
明日病院に行こうかなと考えていたらスマホが震え、東園からもう帰ると連絡が来た。
三浦が報告したのかもしれない。連絡しなくていいとは言ったものの、こう具合が悪くては凛子をちゃんと見ていることが出来ないかもしれない。
幼児は本当に、目を離した一瞬で事故にあったり、誤飲したりするものなのだ。
ソファに座っていたが体勢が保てず横になる。
「ひーたんおねつ?」
「ううん、大丈夫」
凛子が首をかしげる。
切り揃った前髪の下の、黒目がちな大きな瞳が陽向をじっと見ている。
笑って見せると凛子におでこを触られ、そのあとよしよしと頭を撫でられた。
凛子ががお熱のとき、して貰ったことを覚えていて、その真似をしているのかなと思いながら見ていると、和室の押し入れから小さめの毛布を引きずってきた凛子がそれを陽向にかけた。
「りんちゃん優しいね。ありがとう」
未就園児さんなのに、さっきのお医者さんごっこといいこんな事出来るなんて天才じゃないかなと真剣に思う。
もちろん陽向は凛子を産んではないし、知り合ったのはつい最近だけど、毎日一緒にいるからか、なんだかもう凛子が我が子のように感じる瞬間がある。
大好きだよと頭を撫でると凛子は得意気に頷いておもちゃ箱へ向かった。
横になったまま凛子の背中を眺める。
身体がなんだかどんどん熱くなっている、頬を触ると手の冷たさが気持ち良い。
一応これでも仕事中なのだから、せめて座っていたいのに身体が動かない。
ふと、玄関で物音がたったような気がする。見に行かなきゃと身体を起こそうとするけれど、腕の力が途中で抜けてしまう。
凛子を見ている視界が急に塞がれ目の前に東園が現れた。
「ああ、よかった。馨か、お帰り」
休日の、手を加えていない髪型だと年相応だがスーツに横に流した髪型をした東園は年上に見える。しゃがんだ東園の顔はすぐそこで、眉根を寄せて陽向を見ているのが分かる。
「ごめんちょっと体調が悪くなっちゃって」
起き上がろうとした陽向を東園が制した。
「起きるな、顔色が悪いな。気持ちが悪いか? しかし、すごいな」
「え、なに?」
「いや、陽向顔が赤い。ちょっと触ってもいいか?」
頷くと東園は手の甲でそろっと陽向の頬を撫でた。
「熱いな。ちょっと待ってろ。すぐ上に運ぶから」
東園は凛子のそばにより声をかけると二階に上がっていった。
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