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「かおちゃんね、ひーたんねんねって」
凛子が横になった陽向の腰あたりをとんとんと叩き、東園の真似をして手の甲で陽向の頬を触る。
「ありがとう、りんちゃん」
お熱があるね、という凛子に苦笑しながら本当に発熱しているのか分からなくなってきた。
顔もだけど身体の奥まで熱くて、その今までに感じたことのない感覚に少し怖くなってきた。
やっぱり外で何らかのウイルスに感染してしまったんじゃないかと少し落ち込む。マスクに消毒、手洗いうがい、幼児がいるんだからと気をつけていたのだけど。
「りんちゃん遊んでてね。僕は二階に上がるから。かおちゃんが来たらごはん食べてお風呂に入ってね」
起きるなと言われたものの、さすがに二階へ運ばれる程、陽向の身体は軽くないと思う。
座面に手をついてゆっくり上体を起こす。
頭が持ち上がっただけで目眩がして、その体勢から変えられない。
「おいおい無理するな」
カッターシャツの上から二つのボタンを外した東園が陽向の顔を覗き込みながら袖を折り曲げている。
「自分で、行ける、から」
「起きられてないだろ。いったん横になれ、持って行くから」
「持って行けるほど、軽くないと思うけど」
確かに立ち上がって二階に行けないかもしれない。しぶしぶソファに横になると肩の下と膝裏に腕を差し入れた東園が危なげなく陽向を抱え上げた。
「わ、ちょ、」
横抱きに持ち上げられ、落ちちゃうんじゃないかと怖く身体が落ち着かない。
「俺に寄りかかって」
「う、うん」
小さい頃はこうやって運ばれたこともあったのだろうけれど、二十代の今、その感覚を覚えているはずもなくただただ恐ろしくて東園の言うとおりにする。
肩口に顔を寄せると東園の匂いがして脳の奥がじんと痺れる。
なんだろうこの感覚。
身体の中心に火が灯ってじわじわと溶けていく感じ。
どうしてか分からないけれどもっともっと溶けてしまいたい気がして東園のシャツに顔をこすりつける。癖になる匂いだと思いながらふうっと深く息を吐く。
どんどん身体の力が抜けていく。
「下ろすぞ」
「あ、うん」
いつの間に自分の部屋に入ってきたのか、気がつかないほど夢中になって東園の匂いを嗅いでいたかと思うと恥ずかしくなる。
そろっとベッドに下ろされ、布団を掛けられる。
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