運命のつがいと初恋 ②

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 こんこんこんと先ほどより早く扉を叩かれ、「三田村さんですね、古島総合病院救急の谷井田です、入りますね」とキビキビした声が聞こえた。  あ、待って、と言うまもなく入ってきた作業着にマスクの若い男性二人、女性一人が布団から目だけ出した陽向に首から提げたカードを見えるように掲げた。 「私がΩ救急の谷井田、あと高橋に百田です。私がβで、こちら二人はΩです。安心して下さいね。運びますので」  谷井田と名乗った男は陽向に酸素マスクをつけ布団を剥ぐと、今度は百田のカードを掲げた女性がすかさず持っていた毛布で陽向を包んだ。  マスクからなにか出ているようで、吸い込んだ途端、視界がぼんやりしてきた。  谷井田と高橋で陽向を担架に移動させるとあっという間に部屋から一階、一階から外へ、それからすぐに救急車の中へと運ばれた。  家から出ると震えるほど寒いが意識はもうシャットダウンしそうで伝えられない。  今から病院に行けるんだ、この苦しさから救ってもらえる。  下着は濡れたままだしまだ身体は悶々としているが陽向はぎゅっと目をつぶりあと少し、あと少しで楽になると自分に言い聞かせた。  意識がふわふわしているのでなんとなく病院に着いたのは分かったが、今、自分がどんな状況なのか分からない。  病室なのか、診察室なのか。  自分が担架からいつの間にかベッドにいるのは分かった。  そばに誰か来たが、水の中で声をかけられているような聞こえ方で、なんて言っているのかよく分からない。ただ顔を近づけた人間が主治医なのは分かったので、腕を捲られ注射を打たれたとき、これでやっと楽になれると安堵した。  陽向が次にちゃんと目が覚めたのは、年を越してすぐだった。  それまでうっすら起きて、ほんの少し普通でいられるもののだんだんと身体が熱く苦しくなって注射を打って昏睡するを繰り返していた。  そのほんの少し普通でいられたとき、なんとか実家に連絡した。  発情期で病院に入院しているなんて、とんでもなく心配させるので忙しいから落ち着いてから帰るね、と電話出来て良かった。  救急車で運ばれたときスマホ持って、着替え持って、なんて余裕はなく、全部東園が用意し、Ω病棟はα性の立ち入りが禁止されているので病院に預けてくれた。マンションにすっかり忘れて帰っていたΩ受診手帳もだ。  一人暮らしではなく、東園宅に住み込んでいて良かったと思う。  ベッドから立ち上がろうとして、頭がふらりとする。  しばらく寝たきりのような生活だったからだろう、改めてベッドサイドに立ってみてうーんと伸びをする。頭も身体もなんとなくすっきりした感じがする。  窓べにはオレンジや黄色がメインの花が飾ってありその向こう、窓の外には雪がちらついていた。
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