運命のつがいと初恋 ②

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「三田村さん、入りますよ」  こんこんとドアを叩く音と、聞きなれた担当看護師、大川ゆうかの声がした。 「具合どうですか? まず、お熱計りましょうか」 「今日はまだ苦しい感じしないです」  渡された体温計を脇にいれ、しばらく問診を受けているとピピと終了の合図が鳴った。 「うん、熱はないですね」 「あの、もう、発情期、終わりましたかね?」  発情期とはこんなに大変なのかと陽向は身を持って分かった。  やっと日常と同じ感覚で目覚め、ここ数時間苦しむ事なく過ごせている。もう終わっていて欲しい。 「そうですね、12月の23日からだから今日で……10日ですね。通常、ヤマは最初の二日ほど、全体で一週間前後なので、そろそろ終わっても良い頃合いですが。午後から担当の小森先生の診察があるから、その時説明があると思いますよ」  陽向が神妙に頷くと、年末から大変でしたよね、と労われた。 「こんなに大変とは思わなかった」  思わず漏らした言葉に大川が「分かります」と頷いた。  ここの病棟の看護師はΩが多く大川もΩと言っていた。 「大川さんもきついですか?」 「若いときはきつかったですよ。以前の三田村さんのように薬でしっかり抑えられている方は少数ですから」  確かに、今まで主治医の小森から本当に発情期を感じないのか毎回聞かれていた。それだけ薬が身体に合うことが少ないのだろうか。 「今は合うお薬が分かった感じですか?」  大川は一瞬目を見開いて、苦笑した。 「いえいえ、番が出来たので。じゃあ体調がいいときにしっかり食べてくださいね」 「あ、はい」  大川が病室を出た後、ベッドサイドのテーブルでスマホが震えたので手に取った。  誰かは分かっている、東園だ。  見るとやっぱりそうで、体調を心配する言葉と退院日の確認だった。  年末年始に迷惑をかけてしまったし、かけ方が問題ですごく気まずい。  錯乱していたから、陽向はあまり救急車に乗ったときのことを覚えていない。が、自分が自慰した事実はしっかり覚えているのでそれを隠せていたのかすごくすごく気になる。  東園が見てる前で万が一にもしていたら恥ずかしさで気が狂うだろう、が、陽向には確認する勇気は無い。  入院した日からたくさんのメッセージが入っている。今なら体調が良くなったと答えられそうだがためらってしまう。  貰ったメッセージを見る限り、東園の方に気不味さはなさそうで気にしている方がおかしいのかもしれない。あの東園の事だ、今までに発情したΩと関係を持ったこともあるだろう。そんなもんだと思ってくれているといいのだけど。  悶々としている間に昼ご飯が出てきてひとまずスマホは置いて食べることにした。
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