運命のつがいと初恋 ②

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 病室に戻った陽向は複雑な思いで小森に貰ったチラシを東園が持ってきたボストンバッグへ突っ込んだ。  ベッドに入って横になると天井とカーテンレールが視界に現れぼんやり眺める。  本当に、今回だけじゃなく今後、ずっと、発情期がちゃんとくる身体になってしまったのだろうかと考える。  薄い布団を引っ張り上げ陽向は顔を覆った。 「最悪」  毎回、あんな風になってしまうのか。  普通の発情期は、抑制剤を毎回しっかり飲んでいる状態でも、二日ほどあんな風になるらしい。が、陽向が経験した今回の発情期はは、苦しい期間が丸一週間は続いた。  理性が戻ったかと思えば、冷めきれない身体の奥がまたじわじわと熱を上げ、誰でもいいから慰めて欲しくなる。ゼイゼイしながらまた注射を打って貰い、目覚めた後の、なにを口走ったか分からない恐ろしさと嫌悪感。  どうして今まで感じることなく終わっていた発情期がこんなにしっかり発現したのか、原因が分からないなら新しい薬にかけるしかない。  布団の中の陽向にガタガタとテーブルでスマホが震える音が聞こえる。  のろのろと顔と腕を出しスマホを見ると東園だった。  また体調伺いと退院日の話だった。  そもそも、東園ってどこにいるんだろう。  諸々の報告と凛子の様子を聞くメッセージを送ってテーブルに戻す。  何もかも放り出してしまった。みんなでクリスマスを祝う予定だったのに。     雪の舞い散る外を見ながら、今頃凛子は雪遊びしているのかなと思う。  そういえば陽向は上体を起こして改めて部屋を見回す。個室、なのは、症状が発情だからかもしれない。  抑制剤もこの入院にかかる費用も、国のΩ保護方針のため個人負担はない。だからこそ、αとΩの番わせを推進している。  もし、もしこれからあれがずっと続くとしたら、あるいは。  今まで、自分が男と、なんてイメージすら出来なかったのに発情期を経験してうっすら分かってしまった。生活とか飛び抜かして夜の方を…… 「わわわわ」  陽向はまた布団を引き上げ潜り込む。  いやいや、ないない。  負けちゃ駄目だ。男と番うくらいなら一人で暮らすともう決めている、決めたはずだ。  なにをたった一度の発情期くらいで弱気になっているのだ。  こうなったら、次の薬は絶対に効いてくれないと。  小森は分からないと言ったけど、今までの生活と変わったのはそれまでの仕事を辞めたこと、東園家にいること、だ。  ちょっと距離があるけど通いにした方が陽向の身体が元に戻るかもしれない。  東園に相談しようと思いながらそろっと布団から顔を出し、上体を起こす。    スマホをとろうと窓に目を向けると遠くに見える街路樹が雪化粧をしていてほうと陽向は息をつく。  今夜辺り雪だるまが出来る位は積もるかもしれない。  陽向はベッドから立ち上がると窓から外を眺めた。
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