運命のつがいと初恋 ②

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 Ω棟から一般病棟へ続く廊下には警備員が配置されており、医師、看護師は身分証、患者は通行許可証を見せる決まりになっている。  陽向も小森に貰った通行許可証を見せ一般病棟へ移り、一階のインフォメーションや会計のある大きな待合室へ向かった。  エレベーターで降りている途中、陽向は「あ」と声を上げた。  もう東園が来ている。  ずらりと並んだベンチや椅子の後方、壁際に腕組みして立っているが体格がいいのでなんか目立つ。  東園もエレベーターにいる陽向に気がつき、小さく手を上げて大股で近寄ってくる。    前をちゃんと見ていないせいでベンチにぶつかりそうになり焦っている東園をなにをやっているんだと眺めつつ、陽向は一階の廊下を歩き始めた。 「陽向、具合はどうだ? きつくないか?」  目の前の東園は薄手に見えるダウンジャケットだ。寒くないのかなと思う。陽向は厚手のダウンの中にボアのパーカーまで着ている。 「うん。もう大丈夫って。あ、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」 「明けましておめでとうございます。今年もよろしく」  お互い姿勢を戻すと東園がじっと陽向を見て「顔色は悪くないな」と微笑んだ。 「迷惑かけてごめん。迎え、ありがと」 「いや。ただ陽向が心配で」  東園が陽向の持っているボストンバッグを取ろうとするので手で押し返した。 「正直びっくりしたよ。今まであんなこと無かったから」 「……先生になにか言われた?」  ふとあのピンクのチラシが頭をよぎり陽向は慌てて首を振った。 「とりあえず、今まで使っていたのとは違う薬を試そうって。周期も変わっているみたいだし、とにかくいつ何があるか分からないから用心してって退院の挨拶の時言われた」 「そうか。俺も出来る限り気をつけておく」  自動ドアが開いてひゅっと風が顔に当たる。  あまりの冷たさに肩をすくめアウターのジッパーを上まで引き上げた。 「さっむ」 「車はあっちだ」  東園が陽向の背に手を当て歩く。なんだろう、この介助されてる感じ、重病人のようだなと思う。  見回すと駐車場の植え込みに雪はなく、もう雪遊びは出来そうにないなと思う。 「あ、さっきの話の続きだけど、」  東園の車に乗り込んでシートベルトをつける。 「ん、なんだ?」 「今回今までと違ったの、原因は特定出来ないって言われたけど、やっぱりほら、環境が変わったことが良くなかったのかなって思うんだよね」 「……それは先生が言ったわけじゃないんだよな」  車を発進させながら東園がそう言うから「まあ、先生は言ってないけど」と続ける。
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