運命のつがいと初恋 ②

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「自分の家から通った方がいい気がするんだ。発情期ってほんときついんだよ。新しく飲んでる薬が次は効いてくれるとは思うけど」  指先が冷たくなっている。  息をふっと吹きかけこすり合わせてもちっとも暖まらない。 「陽向、さっき、いつ何があってもおかしくないって言ったよな。行き帰りに何かあったらどうするんだ? うちにいれば何かあったとき俺が対応できるだろ」 「まあ、確かに」  入退院時に洋服とか、スマホとか、いろいろ持ってきて貰って助かったけれど。 「自分では分からなかったかもしれないけど」  東園は赤信号で停車すると陽向に顔を向けた。 「陽向、すごく匂ってたから万が一、外で発情していたら、」 「……分かった。もう分かったから前見て、ほら信号変わるよ」  車が進み始めた。  陽向は窓に顔を向けシートベルトを握る。   もし、外で発情していたら。なんて怖いことを言うんだと思う。  あんな状態で外にいたら、陽向は多分、多分だけど誰でもいいからやって欲しいと思っていたかもしれない。  ただでさえ寒いのに背筋がぞくっと震える。  東園、なんて嫌なやつなんだ。病み上がりなのにビビらせやがって。  深く何度も呼吸する。陽向は外で発情しなかったし、入院も出来た。そんな恐ろしいことは起こっていないし今後もない、絶対無い。何度も何度も自分に言い聞かせて心の安定を取り戻そうとした。 「陽向、俺はαだ。でも陽向の言うとおり救急車を呼んだし、乱暴なことも嫌がるようなこともしなかっただろ。俺は陽向の嫌がることはしない。絶対に。だから家にいるのが一番安全だと思うよ」  陽向が東園を見ると、前を見たまま東園は微笑んでいた。 「確かに……、まあ、そうだったね、そう、かも」 「じゃあ、通いはなしな。家で凛子が待ってる。急いで帰ろう」 「うん」  うん、とは言ったもののこれでいいのか疑問が残る。  もし次、発情期が来たときは確かに東園家にいた方がいい気がするが、そもそも発情しないよう対策をするならば、以前の環境に戻した方がいいはずだ。  ただ、もう陽向の身体が何をしても発情が定期的に起こり、薬が効かないものに変化していたとしたら、外に出る機会が少なければ少ないほどいいわけで。  だいたい東園はどうなのだろうか。Ωじゃないシッターを雇った方がいいのでは、と思う。  今までの陽向なら普通に働けたけれど今後は普通のΩのように発情休暇がいるかもしれない。どこで働くとしても。  困ったことになった。心底一月前の自分をうらやましく思った。
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