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「ひーたん、ひーたん」
「りんちゃん、ごめんね。あ、可愛いワンピースだね。明けましておめでとうございます」
玄関まで迎えに出てきた凛子を抱き上げる。髪をポニーテールにしていてよく似合っている。今度幼稚園に行くとき、機嫌が良ければしてみようと思う。凛子はよほど機嫌が良くないと朝から髪を触らせてくれない。
陽向がいない間、凛子は元気に過ごしていたようでほっとする。
「めでとーございまっ。ひーたんお顔つめったい」
ピンクのワンピースに白タイツの凛子を抱いたまま室内に入ろうと、靴を脱ごうとして陽向はぴたりと動きを止めた。
見たことのない靴が二足ある。
どちらも新品のように見える。
綺麗に磨かれた革靴だ、東園が買ったものをシューズクロークにしまい忘れているのかな、と思いながら凛子が降りたそうに身動ぎしたので玄関へ下ろした。
「ひーたん」
手を差し出されたので、凛子の小さな手を握ると早く早くと引っ張られた。
駐車してすぐ来るはずの東園を待ちたかったが無理そうだ。
なんか、まずいかも。
リビングから物音がする。テレビと、聞き取れないが人の声。
お客さんがいるのかも。
今日は1月4日、世間の半数は正月休みだろう。
ならば東園は何も言わなかったが、ご家族がいる、のかも。
色んな可能性がよぎったが先を行く凛子はもうリビングへの扉を開き、「ひーたん」と声を上げていた。
廊下と比じゃない明るさのリビングに、陽向の手を離した凛子が「じいじ」と叫びながら駆ける。ソファへ向かって飛び跳ねたかと思ったら、小さな凛子はすっぽりと大柄な男性の胸に収まった。
やっぱりだ。
凛子を抱き止めた男性は立つと東園に負けないほど長身で顔が東園とよく似ていた。
皺と白髪の多い東園だ。
凛子がじいじと呼ぶからこの人が凛子の祖父で東園の父親だろうと思う。
「ひーた、きた」
「あ、こんにちは。初めまして、三田村と申します」
陽向が頭を下げると、ああ、とバリトンボイスが後頭部にふってきた。
「シッターさんですね、馨から聞いています。初めまして馨の父親、東園誠二郎です。よろしく」
凛子を片手で抱えたまま、「智さん」とキッチンに向かって声をかけた。
「は~い」
キッチンにもう一人いたのか。気が付かなかった。
エプロンで手を拭きながらこちらへやってきた人物は陽向より少し背が高い、華奢な美男子だった。
「馨の母の智紀です。よろしく」
「は、初めまして。三田村です。よろしくお願いします」
結構な衝撃だったが驚きを表していいのか分からず、頭を下げている間にぐっと飲み込む。
東園の母親なら三十代後半から、四十代だろう。しかし智紀は陽向達のちょっと先輩、二十代にも見える容姿だ。肌は艶やかで黒髪は輝いている。
この人がΩで馨と姉を産んだ人か、と思う。
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