運命のつがいと初恋 ②

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「ねえ、三田村君って、馨の中学の同級生じゃない?」 「え、は、はい。そうですけど」 「やっぱり」  長い睫毛が縁取った大きな目を細め、微笑む智紀が美しく、おおと声を上げそうになる。  なんてΩらしいΩだろう。  女性なのか男性なのか、一見では分からない中性的な容姿と蠱惑的な美貌、体つきは細身だ。  さすが、富豪(だと思われる)を射止めただけのことはあるなと感心してしまう。  しかし陽向は智紀に見覚えはない。会ったことがあれば覚えていそうだけど。 「すみません、お会いしたことがありましたか、あの、覚えていなくて」  凛子が誠二郎の腕を抜け出し玄関へ「かおちゃ~ん」と飛び跳ねながら移動してゆく。   家の中の人口が増えて凛子は嬉しそうだ、随分興奮しているなと思いながら凛子の背中をほのぼのとした気持ちで眺める。 「いや、会ったことはないから、初めましてです。こちらが見かけただけなの」 「はあ、そうですか」  もう卒業して十年以上だ、見かけただけでよく覚えていたなあと思っていると「ほら、僕もだけど君もΩでしょう。あ、Ωの子がいるなって、やっぱり分かるから」と智紀に微笑まれた。  笑みを返しながら、陽向のようにΩらしくない、β寄りのごく普通の容姿でも分かるものなのかと感心する。  陽向は多分、智紀のように飛び抜けてΩらしい容姿か、発情していないとΩとも気がつかないかもしれない。  もっと周りを見て生きないとなと思う。 「ただいま」  凛子を抱き上げた東園がリビングに入ってくると誠二郎が凛子を受け取り、智紀はお茶入れるね、とキッチンに向かった。  東園が持ってきたボストンバッグをちょうだいと手を伸ばすと「陽向は座っていて。病み上がりだろ」と遮られた。  自分でも初めての事でつい病気に罹ったように錯覚してしまうが、発情期はΩの体質だ。 「でも荷ほどきしたいし」 「俺がするよ。洗濯物出してほかは部屋に置いとくから、休憩して仕舞えばいいだろ」 「いいよ、自分でする」  手を出す陽向を東園はにこやかに遮る。そしてボストンバッグを持ったまま浴室へ歩き始めた。  確かにさっき退院した身だけれど、自分の事は自分でしたいと思う。  
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