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東園の後を付いていく。
脱衣場でバッグを床におき、開こうとしている東園からバッグごと奪った陽向は「馨はリビングに行きなよ。だいたい、家族水入らずって知ってたらこっちに来なかった」とため息混じりに溢した。
「初めてきつい発情期だったんだろ、一人に出来るわけ無い」
「もう終わったから大丈夫だって。ていうか、今からマンションに帰るね。正月から他人が家にいるのおかしくない? さすがに邪魔だろ。海外から戻られたんだから家族でゆっくりするべきだよ」
「他人って、陽向ここに住んでるじゃないか」
「まあ……、住んでるといえば住んでるけど、それは仕事だろう。普通仕事は正月って休みじゃん」
陽向はちらりとリビングの方に顔を向けて、浴室の東園に顔を戻した。
「ご両親も驚いてたんじゃない? とりあえず日があるうちに帰るよ」
しゃがんでいた東園は立ち上がると陽向の方へ一歩近づいた。
「陽向が入院してすぐ両親が帰国したんだが、凛子がずっと陽向の話をするものだから、両親は今日陽向がここに帰ってくるの楽しみに待っていたんだ。彼らのためにもいてくれないかな」
「え、うーん、……でもさ」
すっと東園の手が伸びて、陽向の首をかすめ髪を触る。肩がビクッと震える。
「な、なに?」
東園は答えることなく顔をぐっと近づけてきた。
ああ、この匂い。近いとしっかり匂いが届く。
東園の匂いはなんだか癖になる。
陽向は目を閉じ、その匂いに集中した。感じれば感じるだけ、うっとりとする。
以前は好きになれない匂いだったのに。
「ん、ゴミが付いてた」
髪を優しく払って微笑んだ東園はぼんやりしている陽向からボストンバッグを取り返した。
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