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「馨、これ次運んで」
「ああ」
リビングに、二階の空き部屋に立てかけてあった、こたつにもなるという180㎝はありそうなテーブルが運び込まれ、宴会の準備が始まった。
誠二郎は凛子とテレビの前でランブ-鑑賞会兼お遊戯会兼写生大会を一手に引き受け、東園と陽向は智紀の手伝いをしている。
大人が食べるオードブルは先ほど「なじみの料亭」から届いてもうテーブルに置いてあるが、智紀は鍋も食べたいと寄せ鍋も作るそうだ。
その他、刺身やら数の子やらどんどん冷蔵庫から出てくる。もしかしてまだお客さんが来るのかなと思うほどだ。
「陽向寒くないか? これ着たら」
盆に載せたイカの和え物の小鉢をテーブルに並べていたら、東園に後ろから毛糸のジップアップカーディガンをかけられた。
「あ、うん、ありがとう」
特別寒くはないけれど、気持ちはありがたいので受け取っておこうと思う。
盆を膝において肩に掛かったカーディガンに袖を通す。
東園の物であろうカーディガンは陽向には大きく、袖を一度折った。
「三田村くんこれ切ってくれる? 鍋でくたくたになるまで煮るから適当でいいよ」
「あ、はい」
キッチンに戻ると配膳待ちの小皿がダイニングテーブルにまだ残っていた。これだけの量、食べきれるのだろうか。
鼻歌混じりに智紀は「食べ物いっぱいあるから、少しだけ作ろ~」と小さめの土鍋を棚から出している。
陽向は智紀の隣でこれ、と渡された白菜を切り始めた。本当に少しのつもりなのだろう、用意してあったのも四分の一の白菜だ。
「切ってる途中に話しかけてごめんね。もし体調悪かったらいつでも休んでね」
「あ、本当に大丈夫です。すみません、ご心配頂きまして」
隣をみると、小首をかしげた智紀が陽向に微笑みかけた。
一つ一つの動作がなぜか艶かしく感じる、耐性のない陽向など危うく鼻血が出そうになる。
Ωの頂点、だなと思う。同じΩでもランクが違うんじゃないかと思うほど、人形めいた美しさだ。
東園の母親がΩの男性だから、同じ男とつがうにあたって葛藤は無かったのかな、や、どうやって出会ったのか、相手のどこが良かったのか、など色々と聞いてみたいと思っていたけど、智紀では参考になりそうもない。
智紀はきっと、最初から陽向の思う「同じ男」という土俵に上がった事などなさそうだ。
小さな頃、Ωとは遊べないと陽向を無視しようとした友達に「陽向はΩっぽくないからいいだろー」と康平が言い返すくらいには、所謂「普通」の陽向からすると生きようが違うと思えてしまう。
かといってうらやましいとは思えないのはΩの男だからなのかもしれない。
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