運命のつがいと初恋 ②

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 αはΩのフェロモンに惹きつけられると言うが、αもΩの発情を引き起こす事があるのだろうか。  発情は周期的に巡るものであって、そこにαフェロモンが干渉するとは聞いた覚えがない。もっとも陽向はつい最近まで他人事だったので、ただの勉強不足かもしれないが。  Ωより人口は多いがαだって、出会うのはそうそうない事なので、陽向のよく知っているαの他人は康平くらいだが、康平は産まれた頃から一緒にいるのでαっぽい匂いを感じたことはない。  康平に関してはあまりに身近で家族に近いから分からないのかもしれないが、再会した東園というαには、陽向は明らかに反応していると思う。さっきも洗面所で東園の匂いにぼんやりしてしまった。  やっぱりαと一緒に暮らすのはリスクが高いんじゃないかな。  もう二度と、あんな思いはしたくない。  ため息交じりに白菜を切り準備してくれていたざるに移しもう一度さっと水洗いする。 「ねえ、本当に大丈夫? ごめんね、聞いたんだけど初めての発情期だったんだよね」 「あ、はい。初めてっていうか、今まで薬できっちり抑えられていたので。Ωってすごく、大変なんですよね。今更身をもって知ったというか。あ、でも大丈夫です。次なに切りましょうか?」  じゃあこれ、と智紀から椎茸を受け取って切っている間にどんな薬を服用しているの、など体調を心配する質問に答えていく。 「ほんと、やっかいだよね。発情期」 「はい。今までこの経験をすることなく生きてこれたのが奇跡だったのかもしれないって思いました」 「参ってるね」  あちゃーと言いながら陽向の切った椎茸を土鍋に投入する。 「でも三田村君にもきっと運命のつがいがいるよ、待ってるんじゃないかな」 「いや、僕は……、あんまり考えたこと、ないです。僕じゃちょっと、相手も嫌じゃないかな」    肩をすくめた陽向に智紀が大きな目を更に大きくして一歩近づいた。 「え、可愛い顔してるのに? ……でもまあ大丈夫だよ、心配ないない。僕たちは強いからね」 「強い、ですか?」  お玉で鍋をかき混ぜながらちらっと智紀が陽向を見て、大きくうん、と頷いた。 「Ωは強いでしょ。うん、そのうち分かるよ。ねえねえ、三田村君って好きな人とか、付き合ってる人とかいないの?」 「いません。そういうのはちょっと、なんていうか、いないです」  頭をぶんぶん振りながら強いとは、どういうことだろうと思う。  Ωはあんな体調不良を抱えどの性別に比べても底辺だ。どうして強いなんて。 「そうかぁ。お! 凛子、どうした?」  東園が凛子を抱いてキッチンへやってきた。渋面の東園は「詮索しない」と智紀を睨み、言われた智紀は肩をすくめた。
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