運命のつがいと初恋 ②

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「おーこわ、凛子おいで」  お玉を陽向に渡した智紀は東園から凛子を受け取るとぎゅっと抱きしめた。  美しい顔が破顔すると、今度は可愛らしい印象になる。  ああ、確かにこの人は強いかも、と思う。強いというか、無敵、かも。美が強烈だ。 「凛子が自分も手伝いたいって。あ、陽向、貼るカイロあるけど使ったら?」 「いや、いらないかな」  東園はポケットから手のひらサイズの貼るカイロを取り出し陽向に差し出した。  暖房の効いた室内で、先ほどカーディガンも足した陽向はちょっと暑いくらいだ。 「温かくしていた方がいいんじゃない? 病み上がりというか、身体が疲れているだろうし」 「え、……先生から温めてなんて言われなかったけど、でも、まあ、ありがとう、寒くなったら使おうかな」  取り合えず、受け取っておこうかと思う。東園から貼るカイロを受け取った陽向はカーディガンのポケットにしまう。 「心配なんだよねー。さ、凛子は自分のコップを持っていってくれるかな。そろそろご飯にしようね」  智紀が床に下ろした凛子にプラスチックのコップを渡しテーブルに置いてねと頭をなでる。  意気揚々とコップを運ぶ凛子の後を、智紀を一睨みした東園がついて行く。 「……三田村君、馨をよろしくね。がさつだけど悪い子じゃないから」  悪い子、子。あんなに大きく育っているけれど母親から見ればいつまで経っても「子」なんだなあと思う。  しかしなんで東園なのだろう、自分は凛子のシッターなんだけど、と思いながら頷く。お玉を渡すと智紀は鍋の出汁を小皿に取り味見をした。  智紀はうんと深く頷き「そろそろいいかも」と微笑んだ。 「いつまでこちらにいらっしゃるんですか?」 「行ったり来たりなんだけど、四月まではこっちが多いかな。凛子の入園式があるしね」 「そうなんですね」  よろしくね、と言われたからすぐ帰るのかと思った。  せっかくこっちにいる時間が長いのなら、凛子と過ごさなくていいのかな、と思う。凛子にとってはそうした方がいいと思うが。 「さあ、鍋も出来た。馨、運んで。ご飯食べよう」  智紀は顔の前でパンと手を合わせた。
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