運命のつがいと初恋 ②

43/57
前へ
/165ページ
次へ
 いま、目の前に食べ物があるし飲み物も準備した、だけど食べる気にならない。  なにか、心がそわそわして、身体を動かしたい気がする。  居ても立ってもいられなくて陽向はバタバタと二階へ上がり凛子と自分の部屋を整え、空気の入れ換えをした。  それでもまだご飯を食べられるほど動けていない気がする。  陽向は下に降りて洗濯機を回そうと脱衣所に入った。  洗濯籠から洗濯物を洗濯機に入れようと屈んだとき、ふとその隣のクリーニングバッグが目にとまった。  なに、と思うこともなくその中に手を突っ込んだ。中に入っているのは東園のカッターシャツ、それだけだ。  中身を引き出した陽向は引き出した二枚の使用済みシャツを抱えて顔を近づける。大きく息を吸い込むと身体の芯がぐにゃりと曲がってしまう感覚を覚えた。  二枚のシャツを抱え陽向は立ち上がる。   さっきまで気力は充実、身体も異様に元気だったのにも関わらず、一歩足を出すと力が上手く入らずよろけてしまった。  壁により掛かった陽向はよろよろしながら二階に上がり、今まで入ったことのない東園の部屋を開いた。 陽向の部屋の倍ほどある広々とした部屋にダブルベッドより大きい、キングサイズと思われるベッドがどんと置いてある。  目的がそこなので陽向の目はそれしか拾わない。手元のシャツを顔に押しつけながらまっすぐベッドに進み少し乱れた布団を剥がし真ん中に座り込んだ。  顔にシャツを押しつけたままベッドに寝そべり、シャツから顔を離すと今度はシーツの匂いを嗅いだ。  ああこれこれ、この匂い。  頭がぼんやりするほどいい匂いだ。  抱えたシャツと、ベッドから漂う匂いに包まれてしばらくぼうっとしていた陽向は肩が冷たくなってきて足下に寄せた布団を引き上げた。  布団にくるまると最高に心地よく、陽向は気持ちよさに目を閉じた。  遠くで自分を呼ぶ声がする。  女の人の声、これは三浦だ。  あれ、二度寝しちゃったのかな、陽向は慌てて起き上がった。それと同時に「ええ、まさか誘拐じゃ、」といいながら三浦が部屋の扉を開いた。 「あ、ごめんなさい、二度寝しちゃった」 「え」   ノブを握ったまま、三浦が目を瞬かせている。  今日何をどこまでしていたか思い出せない。早くベッドから抜け出して仕事しなきゃいけないのに、身体が動こうとしない。  それどころか早く布団の中に戻りたくて堪らない。掴んだ布を引き上げ胸に抱える。 「陽向さんそれって、」 「え、……え、えこれなに、」 三浦が指すので手元を見ると自分が握っているものが布団ではなくカッターシャツで驚く。 しかも使用済みだ。  さっと血の気が引いておそるおそる三浦を見ると、三浦は口を大きく開けたまま陽向とカッターシャツ交互に見て「あ」と声を上げた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3293人が本棚に入れています
本棚に追加