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「陽向さん、今日はそこでゆっくり休んで下さいね。もしなにか食べたくなったら教えて下さい、持ってきますので」
「え、えええ、いや、休まなくても」
「大丈夫ですよ、こっちのことは。とにかくゆっくり、ゴロゴロしてて下さいね」
「え、や、」
待って、と言い終わらぬ間に三浦は扉を閉めた。
すぐ追いかけなくちゃ、朝からなにもしていないかも……と思うのに身体は一向に動く気配がない。
座ったまま、三浦に申し訳ないと思いながら手元のカッターシャツを見る。
本当に、なんでこれ持っているんだろう。
使用済みって。
他人の使った後のカッターシャツなんて触りたいと思ったこともないのに。
しかも扉までの距離が遠い、ここは陽向の部屋じゃない。
陽向の部屋じゃなく、もちろん凛子の部屋じゃない、カーテンの色が違う。
となるとこの家であとベッドがあるだろう部屋は東園の部屋だけだ。
掃除しなくていいと言われていたので、一度も入ったことのない部屋だ。
絶対怒られる。
勝手に部屋へ入った上に陽向はベッドにいる。
いろいろ絶望的状況なのにそれでも、陽向はここから動けない。
なんなのこれ。どうしたの自分。
顔を手で覆うとそこからふんわりといい香りが立ち上ぼりはっとした。
カッターシャツを掴み顔に押しつける。
肺いっぱいにシャツの匂いを吸い込むと身体の力が抜け思考がさらに滲んでゆく。
この匂いがもっと欲しい。無性に欲しい。
陽向はゆっくりベッドから離れ部屋を見回す。
部屋の端にウォーキングクローゼットを見つけ、そこに掛かっている服を片っ端から引く抜きベッドへ運んだ。
それを全部ベッドの中に入れて陽向はその中心に寝転がる。
上から布団をかぶれば完璧だ。
陽向の最高に心地よい城ができあがった。
いい匂いと体温で徐々に温まる布団の中はただただ天国だと感じた。
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