運命のつがいと初恋 ②

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 頭を撫でられたような気がする。  お腹もすいているような気がする。  どうにかしなきゃいけない気もするが、ここにいることの方が重要に感じる。  目を閉じたまま身体の向きを変える。どちらを向いてもいい匂いに囲まれていて、陽向は幸せだなと思う。 「陽向」  天国の向こうから話しかけられている。  そろっと布団から顔を出すと東園がベッドに座って陽向の方を見ていた。 「陽向、気分は悪くないか?」  髪をそろっとよけて、東園が陽向の額を撫でる。  その手を握って匂いを嗅ぐ。あ、これ、本物だと思う。 「すごい匂いだな。それに……、これは、また」  東園を見ると背広はなく、ネクタイを緩め襟元を少し開いている。  あれ、仕事終わりかな、もうそんな時間かとうっすら思う。にじり寄って手の甲から肩、首に顔を近づける。  ああ、天国より濃い匂い。めいいっぱい吸い込む陽向の背に掛かった布団を東園がめくった。 「おお、すごいな」  ふうと息をつく東園に乗り上げ首の後ろに鼻を押しつけた。  そうしたい欲望にあらがえない。  東園が無抵抗なのをいいことに陽向は巻き付き存分に吸い込む。東園の匂い、αの匂い。  どうしてこうこってりした甘ったるい匂いなんだろう。そしてどうしていつもこう身体の奥底に溜まっていくような重い匂いなんだろう。  もっといっぱい欲しい。  どんどん溜まってすべてを溶かして、陽向の身体をぐちゃぐちゃにして欲しいと思う。 「陽向、ちょっと離れようか」 「え、いやだ」   両肩を掴まれ引き剥がされる。体格の違う東園が本気で離そうと思ったら簡単だ。  離れても興奮で上がった息はそのままだし、もうとっくに身体の奥が熱い。  自分は発情してしまったようだ。  思考が滲み、もう目の前のαに縋り付くしか思いつかない。  身体全部がαを欲している。陽向はこれを我慢することがどんなに辛いか、もう知ってしまっていた。  もう一度あの匂いを味わいたくてじわじわ近づくけれど、東園もじわじわ離れていくから埋まらない。 「陽向、……病院行こうか」 「や、いやだ、病院はいい」 「しかしな、」 「お、お願いだから、馨が、ちょっとだけ、でいいから」  欲しくて欲しくて堪らない、身体がグズグズでもう。  これからこの熱が引いていくまで、何日も何日も我慢できない。  でも、目の前の東園はなんの感情も浮かんでいない瞳で陽向を見ている。酷く冷静な面持ちでゆっくりと横に首を振った。 「が、我慢するの、きつい、ほんとにきつい、から、今日だけでいいから、お、おねが」 「駄目だ」  ぴしゃりと突き放され、視界が滲む。 「た、たのむから、」  冷たい目がただ見ている。  その温度のない視線がどんなに頼んでも駄目だと陽向に伝えているようで悲しい。 「……もし俺が、ちょっとだけ、今日だけって陽向を抱いたら、陽向は絶対に後悔する」 「しっ、しない、しないから」  下目蓋にかろうじて引っかかっていた涙がほろりと落ちる。   「発情期が終わったら、きっと俺に抱かれたことを後悔する。このあいだは近づくのも嫌がっていたじゃないか」 「だって、で、でも、」
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