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「陽向」
東園が頬を撫でる。近づいた手から漂う香りにまた脳が溶ける。
「ふっ、はぁ、」
「可哀想だけど、駄目だ。陽向がこうやってちゃんと俺の顔を見て、話をしてくれるなんて、昔じゃ考えられないことだっただろ。今を捨てたくない」
「んっ、も、もうっ、か、からだがっ、た、すけて、」
隙を突いて陽向は東園に巻き付いて絶対離されないようにぎゅっと力を入れた。
この匂いに包まれ楽になれたらどんなにいいかと思う。
身体中全部東園で埋めて貰いたいのに、当の東園は陽向の頭上で大きなため息を落とした。
「前みたいに、陽向に嫌われたくないんだ。陽向はきっと、発情期が終わったら男に抱かれたくなかったと思うよ。そして俺を恨む。それだけは絶対に避けたい」
「は、そんなっ、そんなことない、ない、……ない、から」 「陽向が理性的なときにそうしていいと決めたならまだしも、今は駄目だ。病院へ行こう、俺と離れていた方が良さそうだから、連れてはいけないな。また救急車を呼ぶか」
「いやだっ、ん、いやだぁっ、ふ、」
力一杯抱きついていたのに簡単に身体を離され東園はベッドから立ち上がりスマホを取り出した。
ぼたぼたと零れた涙が布団にシミを作る。
こんなに苦しいのに、こんなに頼んでいるのに、なんて酷い人間なんだと思う。
最低、人間のくず、ばかばか、ぼろぼろ涙をこぼしながら思いつく言葉で頭の中で詰る。たくさん詰っているのに、ひとつも言葉にならない。
陽向の口からは鼻に掛かった喘ぎがこぼれるばかりだ。
「ん、は、ふう、んっ、」
「もうすぐ救急車が到着するから、しばらく横になってろ」
「うう、あ、あ、」
こんな人でなしとはもう口もききたくない。
陽向は布団の中へ帰った。
でもさっきまで天国だったそこは、陽向の欲求を満たしてはくれない。
苦しさが喉までせり上がってきて今すぐ吐いてしまいそうになる。でもどうしようもない。東園のシャツを顔に押し当て我慢するほか道がなかった。
しばらくして病院職員が到着したが、陽向は体内をずきんずきんと音を立てて暴れ回る性欲を堪えられず、前をいじり下着も汚れた状態で泣きじゃくっていた。
最悪な状態にもかかわらず、こんな状況になれているのか病院職員は顔色一つ変えず、「これは置いていきましょう」と陽向が握っていたシャツを取り上げる。
これがあるから、ギリギリのところで意識を保てていたのにそれまで取り上げられるのか、と陽向は何度も首を振って離さないと伝えた。
しかしなんの力も入っていない陽向からそれを取り上げるのは簡単で、すっと手元から引き抜かれた。
ぎゃっと叫んだあと、陽向の意識はぷつりと途切れてしまった。
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