運命のつがいと初恋 ②

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 マンション下に着いて始めて、自分は鍵を持っているのか分からない事に気がついた。  あわあわと肩掛けのバッグを探すと鍵がちゃんと入っていた。  鍵も入れてくれていたんだとありがたく思う。  ここの鍵と、東園宅の鍵の二つがぶら下がったキーホルダーの端を引っ張り出し、エントランスのオートロック操作盤で自動ドアを開く。  コートを取りに来て以来だったので郵便受けは満杯だ。慎重に郵便物を取り出し部屋に向かった。  部屋は相変わらず狭く、狭いからなんだか落ち着く。  靴を脱いでたった一部屋の我が家へ入り、小さなテーブルに郵便物を乗せる。  郵便物は山のようだがぱっと見た感じ、特別異常はなさそうだ。  寒いから開けたくないけど、空気の入れ換えをしなきゃならない。窓を開いて、忍び込む冷気に陽向はぶるりと身体を震わせた。  嫌だなぁと思いつつ冷えた指先で郵便物を一つ一つ開いてゆく。そういえばここの解約も手続きしないといけない。  郵便を片付け終わり、そろそろいいかなと窓を閉めた。  スマホを取り出すとメッセージが10件以上入っていて軽く驚く。  東園からいまどこにいるのか帰省は今日じゃないと駄目なのか、飛行機か、新幹線か、もう乗ったのか、クエスチョンマークの多いメッセージが立て続けに入っていて、最後に帰る前に一度会いたいと一文があった。  東園は極めて普通に接してくる。  東園に嫌悪感はなかったのだろうか、友達から迫られるなんて唖然としただろうに。  返信しようか少し悩んで、どうしても出来ずにスマホをテーブルに置いた。  まだ会話をする気分になれない、勘弁してほしいと思う。  話したくないし、本当はメッセージを受けとるのも嫌だ。  もちろん会うなんて無理だ、恥ずかしさに卒倒してしまう。  それに、東園の匂いはいけない。中毒性があるんだと思う。  あれのせいで、陽向はおかしくなったと今は確信している。  甘い。だけど長く近くにいると、その奥に生き物の生々しさが見え隠れする、甘いだけじゃない香り。  もう出来たら近づきたくない。  昔感じた恐ろしい感じはこれを知らず知らずに感じ取っていたのかもしれない。  とにかく飛行機の時間を調べようと再びスマホをに手を伸ばしたとき、ピンポンとチャイムが鳴った。  来客? ここに?  今まで誰か来たことあったかな、と思いながらインターホンで応答すると「管理組合の者です、更新の件で案内を持って参りました」 と管理人がいつも着ている管理会社のジャンパーを着た黒縁眼鏡の男性がモニターに写っていた。
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