運命のつがいと初恋 ②

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 モニターを見る限り、陽向の知っている管理人とは違う。しかしオートロックの外ではなく陽向の部屋の前にいるし、管理人が変わることはたまにある。  陽向はふうん変わったんだ、と思いながら「ちょっとお待ち下さい」と返した。  鍵を開きドアを開ける。 「はい」 「どうも、管理会社の者です」  陽向より長身の男性は手に持ったチラシを見せながら、開いたドアの間に身体を滑り込ませてきた。  陽向が驚いて後退した隙に後ろ手でドアを閉めカチャっと鍵を閉めた。  え、と思うまもなく侵入者は眼鏡を取って微笑んだ。 「陽向先生、待たせてしまって申し訳なかったです。私のために仕事も辞めて待っていてくれたんでしょう?」 「え、……え?」  早口でそう言った男は狼狽える陽向に近づいてきた。 「な、なに、やめろ」  後退した陽向を追うように部屋に入ってきた男は「ああ、なんていい匂い」と呟きながらはあと息をついた。 「前に比べて強くなっているね、僕を誘うためかな。可愛い人だ」 「……」  誰、誰なのか分からないが、ヤバイやつなのは分かる。  どうしよう、ドクドクと心臓が大きく脈打っている。  逃げようにも出口は、この何言っているか分からない侵入者の背後にあるし、ベランダはあるがここは七階だ。 「あの、ど、どちら様でしょうか、その、」 「何を言っているんですか、あなたから誘惑してきたくせに」  ふんと鼻を鳴らして男はジャンパーを脱ぎ捨てた。  男はさっきから荒く息をついている。この男がαだからだろうか、Ωの陽向に興奮しているのだろうか。  テーブル越しににらみ合う体勢になってはいるが、そう長くは持たない。  陽向は何か身を守れるものはないかと精一杯考える。 「可愛いね、震えているのかい。ほらこっちにおいで。Ωはαが欲しいんだろう」  よれたカッターシャツの首元を緩め始めた男が陽向の震える手を見てにやっと笑う。  歪んだ笑顔にぞくっとした。  怖い、どうしよう。  陽向は自分の手を隠すようにして冷静に、冷静にと自分に言い聞かせる。  この男は陽向先生と言っていたから幼稚園関係者だろう、そしてαで、そしておそらく、考えたくないけど、ここに来た理由は陽向を犯すためだ。  気持ちの悪さに泣きそうになるが、ぐっと堪える。  陽向より大きい男だ、一瞬の隙を突いて逃げなければ掴まる。  ああもう、どうしてΩに産まれたんだろう、Ωじゃなければこんな屈辱は……、と己を恨みそうになるがそんな場合じゃない。  ゆっくりと距離を詰めてくる男に陽向もテーブルを回るようにして玄関側を取れるようにじわじわ移動する。足にカツッとゴミ箱が当たった。  「ほおら、おいで。そろそろ我慢も限界だよ」  にゅっと伸ばされた手をよけ陽向は足下のゴミ箱を素早く取り中身を男にぶちまけ走り出した。  狭いから玄関はすぐそこ、扉にどんと当たりながらノブを回すが鍵が掛かっていてすぐには開かなかった。  泣きたい気持ちで開錠しようとタブを回した瞬間、ガツンと鈍い音と後頭部に脳が揺れるほどの痛みと衝撃がきた。
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