運命のつがいと初恋 ②

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「ぐあっ……うう」  殴られた部分を庇うように右手のひらをあてしゃがみ込んだ陽向の頭上から「手を煩わすのはやめようね」と低い声がふってくる。  後頭部に当てた右手の手首を強く握られ、力一杯後ろへ引かれた。 「いっ、いたっ」 「痛くされたくなかったら、大人しくしないとね」  細身に見えるのに陽向を引きずり部屋の中まで連れてこられるのは、この男がやはりαだからなのだろう。  男は殴られたところも手首も痛くて唸っている陽向をベッドへ放り投げる。  なんなんだこいつは。  睨みあげた先の男はうっすら微笑んでいて本当に気色悪い。  陽向は息を荒げ乗り上げてきた男へ拳を振るい、怯んだ隙に腹部を蹴ってベッドから抜け出した。後頭部がツキッと痛むが気にしていられない。  こんな男に触られるのは嫌だ。絶対に。 「くっそ変態が、」  立ち上がり一歩踏み出そうとしたとき、今度は髪を乱暴に握られ、ベッドへ引き倒された。 「うう、」 「痛い目みたいんだな、ドMが」  唸るような恫喝あと、陽向は拳を振るう男に顔を殴打された。  口の中が切れ、顔に頭に痛みが渦巻き力が抜ける。男は自分のネクタイを引き抜きぐったりしている陽向の手首をひとまとめに縛り上げた。  着ていたセーターを捲られ腹部に外気が当たりひやっとする。 「ああ、綺麗な肌だ。そしてこの匂い」  素晴らしいとため息をついた後、男は陽向の首元に顔を寄せた。陽向の匂いを嗅いでうう、はあ、と声を上げているが、陽向にはなんの匂いも感じられない。  この男は本当にαだろうか。  αならもうちょっと、なにか、腐ってもΩな陽向にも分かるような、「なにか」を発していてもおかしくないのに。  ただただ気持ちが悪く、痛みに慣れてきた陽向は足をばたつかせ逃げようとするが、足に乗られびくともしない。それどころか腹に顔を戻した男にべろりと舐められぎゃっと声を上げた。 「ああ、柔らかい肌だ」 もう最悪だ。 「い、いやだ、」 「どうした、ここの方がいいのか」 「い、いやだ、ひ、へんたい、んあ、」  腹から舌を這わせ乳首をじゅっと吸い付かれ陽向の視界が滲む。  こんな男にいいようにされるなんて、絶対嫌だ。 「気持ちいいだろう、Ωは淫乱っていうからな」 「いやだっ、やめろ、い、いや、」  身体をくねらせ逃れようとするけれど上の乗る男は動じない。それどころか陽向のベルトに手をかけ外そうとしている。
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