運命のつがいと初恋 ②

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 発情期の思うようにならないもどかしさで疲れ切った上にこんなことがあって、陽向の胸が破裂しそうに痛む。  陽向は首を振って「もうやだ、Ωなんてみんな死ねばいいんだ」と震える声で吐き出した。泥々の気持ちを少しでも表に出したかった。陽向の身体だけでは消化できそうにないから。 「陽向」 「最悪だよ。会ったこともないのに誘惑したって言われた。Ωだから、Ωなせいで、嫌なことばっかり」  吐露してもまだ胸の苦しさは消えてくれそうになく、肩が震え、涙がじわっと涙腺を上がってくる。陽向は唇をかんでぐっと堪えた。 「陽向、今日のことは陽向がΩだから起きたわけじゃない。襲った男がただ身勝手な思いを陽向にぶつけただけだ。陽向はなにも悪くないし、Ω性に落ち度なんて全くない。すべてあの男が悪い。勘違いするなよ」  両手で陽向の顔を包み上向かせた東園は陽向と目を合わせ親指で陽向の頬を撫でた。    一つ一つの言葉を丁寧に、優しく、東園は陽向に囁き、その声は陽向の刺々しくなった気持ちを少し丸くした。  分かったか、と聞かれ小さく頷く。 「陽向、一つ聞きたいことがあったんだが、体調でなにか問題があったのか? 実家に帰る理由を知りたい」 「え? ああ、いや、……別に」 「別にって事無いだろう、戻ったら相談するって書いていたじゃないか」  実家に帰って今後の事を相談し、ある程度方向が決まってから東園に話す予定だった。  それを今聞かれ、答えの用意がない陽向は視線をさ迷わせる。  実家に帰れば陽向の幼少からのかかりつけ医もいるので、見合いじゃない対応も考えてくれるかもしれないとほんの少しだが期待している部分もある。  しかしここで出来ないことを地方で出来る訳ないと思う自分もまたいるのだけれど。  じっと真顔で覗きこまれ陽向は渋々話し始めた。 「もしかしたら、ううん、多分、次も抑制剤が効かないかしれないって、先生に言われたんだ。この前入院したときも、もし薬が効かない場合はパートナーを見つけた方がいいかもって聞いてて。うち、母親が前、いっぱいαの人との見合い話を持ってきていたから、もしかしたらその伝手がまだあるかもと思って。一回帰省して家族に相談するつもりなんだ。ま、かかりつけの先生にも見て貰って薬の相談してからだけど」 「陽向、それ、αとつがうって事だよな。前に付き合うのも結婚もしないって言ってたのに」 「つ、つがうっていうか、発情期、本当にきつくて、その、……自分もおかしくなっちゃうし、もう、あれは無理、耐えられない。薬が効かないならしょうが無いし、αの人に何人か会えばもしかしたら、その、僕でもいいって人がいるかもって、」 「αなら誰でもいいのか? さっきの奴だってαだっただろ、αだったらあれでもいいってことか?」  東園が肩をすくめる。もちろん誰でも言い訳じゃないけれど、αも総数が少ない性だ、えり好みは出来ないと分かっている。  答えに窮した陽向はそうじゃないけど、といいつつ東園から顔をそらす。
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