運命のつがいと初恋 ③

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「馨は? 馨も普段飲まないよね?」 「俺は嫌いじゃないから飲むよ。でも凛子と暮らし始めてたまにしか飲まなくなったけど」 「そうなんだ。飲みっぷりいいから酒強そうにみえる」 「確かに酔わないかな」  ふわっと欠伸が出る。  さっき寝たのにと思いながら陽向も最後の一口になったビールを飲む。爽やか過ぎてするすると飲めてしまう。 「陽向は少し顔が赤いな」 「そうかな、これ美味しかった。あ、もう要らないよ」  ビールを注ごうとする東園に首を振る。  じゃあと東園は自分のタンブラーに残りを流しこんだ。  久しぶりに飲んだからか確かに酔いが回ってきているかなと思う。たった一杯だけれど。  頬杖をついて今日は色々あったなと思い出す。顔が少し熱い。 「そういえば、前に郵便にイタズラされてたんだけど、それも中原さん、の仕業だったのかな」 「いたずら? どんな?」  陽向はタンブラーの縁をなぞりながら今まであった嫌がらせを話した。東園は一度ぐっと眉を寄せたあと人差し指で顎を掻いた。 「奴のやったことかもな。証拠品は取ってある?」 「ううん、気持ちが悪いから全部捨てた。調べてもらうつもりもなかったし」  どうして、と陽向を見据える眸が聞きたそうにしている。陽向はゆっくり目を反らして「だって騒いでΩが住んでるってバレたら、また嫌がらせが増えるかもだし」と呟いた。 「とりあえず俺から調べてもらえるよう話すよ。今日、結構な騒ぎにはなったから、なかには陽向がΩだと気づいた人もいるだろう。陽向の気持ちは分かるがもう隠す意味がないかもしれない」  確かにそうだ。  まずパトカーがマンション内に駐車されたことで、在宅の人間がわらわらと見に来ていたし、警官、管理人、管理会社スタッフと複数が出入りしてその場は騒然としていた。  こうなってはしょうがない。 「もう解約すればいいんじゃないか。家はここがあるだろ」  曖昧に「そうだね」と返しながらここは東園さんちですよねと心で突っ込む。  友人を住まわせるなんて、お金に余裕がある人はおおらかなのかもしれない。気に入ったから出ていかないって、あとあと陽向がごねたらどうするつもりだろう。  金持ち喧嘩せずというもんな~と思いながらカシューナッツを口に放り込んだ。  「そろそろ寝ようなかな」  もぐもぐと口を動かしながら自分の手首を見る。ネクタイが擦れたところが所々赤い斑点になって残っている。  改めて今日あったことなんだな、と思う。  今こうやって穏やかにビールを飲んで、いい気分になっているから遠い昔のことのようだけれど。
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