運命のつがいと初恋 ③

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「陽向」  背後から声をかけられびくっと肩が震えた。 「な、なに?」 「いや、今日の夜どうする? 外食にしようか」  今日は昼近くまで寝ていた陽向だが、起きたすぐから自分でもびくついている自覚がある。そんな陽向に東園は苦笑するだけで至って普通に接してくる。陽向はなにもなかったようにしてそそくさと冷蔵庫の前に移動しシルバーの扉を開いた。 「そういえば今日、春日さんいないんだね」  三浦は基本平日勤務で、土日は最近春日凉花という若い女性が来てくれていた。  陽向には普通に接する春日だが、東園には緊張のあまり会話も片言で返していて、話しかけられると一度必ず硬直してしまうので陽向が間に入ることが多い。  なんだか可愛らしいお嬢さんだ。  東園が好きなのかなと思って見守っていたがそういう感情はないらしく、ただイケメン過ぎて直視できないと言っていた。 「いないと寂しい?」 「いや、だから冷蔵庫の中にいろいろ入ってるのかなと思って。いつも春日さんが買ってくるからこんなに入ってないもん。昨日三浦さんが多めに準備してくれているんだね。使っておかないといけないかも」 「なにが出来そう? 作るなら俺も手伝うけど」 「そうだね」  冷蔵庫には今日が賞味期限の刺身盛りや肉も種類、部位小分けにされて保存されている。 「うーん、僕も凝ったもの出来ないからなあ、刺身とお味噌汁と肉炒めるくらいならできるかも。食べに行った方がいいかな」  三浦や春日の手伝いをしてはいるが腕前に自信は皆無だ。  朝食はなんとかなっているけど夕食はなぁ、と思っていると「陽向が作るならなんでも食べる」と隣で東園が冷蔵庫を覗き込んできた。  これを炒めてみる、それとも、と小分けされた肉を吟味している東園を見ながら、この人は多分、肉が焦げても美味しいとか言いそうだなと思う。  鼻の良くない陽向にも分かるほどフェロモン過多だから問題も多そうだが、東園はいい伴侶になりそうではある。  こんな人でも片思いするのだ。恋愛とはかなり難しそうだ。  そのうちに、いや少しでも早く、陽向は結婚相手を、もしくは恋愛、まあそれも無理そうだから、頼まなくても発情期をともにしてくれる人、を確実に見つけなきゃならないのに。  これはどう、と肉のかたまりを見せてくる東園に頷きながら、今後が思いやられるなと思った。
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