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11
ローレルがクスッと笑う気配がした。嫌な感じはしなくて、レフィを可愛いと言っていたエルネストの笑顔と重なった。
どれだけ待っていても来なかったエルネストの事を想う。
きっとレフィだけが約束を覚えていたのだ――。忙しく、身分の高いエルネストには過去の小さな約束事の一つにすぎなかったのだ。
そう思わないとレフィは、大事な人を裏切っているという後ろめたさでおかしくなりそうだった。
「あっ、駄目っ! もうっ」
「いいよ、フィオ……。快楽に身を委ねて――」
ローレルは慣れているのか巧みにレフィを導いた。
「兄様……っ」
レフィは、放つ瞬間に今抱きしめているローレルの名前ではなく、思い出の中のエルネストを呼んでしまった。
「レ……フィオッ!」
少し遅れてローレルも達った。未だ合わさったままのペニスはローレルがアルファであることをレフィに教えた。アルファの精液の量は多いと聞いていたけれど、レフィは自分との違いに驚いた。いつまでもドクドクと溢れるのが合わさっているペニスで感じるのだ。
情事の最中に他人の名前を呼ぶことが非常識だとレフィもわかっていた。怒鳴られても、けなされてもおかしくない事をしてしまったと緊張したレフィの肩に頭を乗せて、ローレルは大きく息を吐いた。艶めかしい吐息に、レフィの肌がざわついた。
「フィオ……」
「……ローレル、もう止めないか? 俺はあんたにふさわしくないと思う」
ローレルはレフィが呼び間違えたことをなかったことにしたようで、敢えて触れなかった。レフィの提案に駄目だともふざけるなとも言わず、ただ手についた二人分の精液をレフィの下腹になすりつけた。見えないながらもレフィはそれを感じて、首を傾げた。
「何を」
「次は君のここに注ぐ……」
それは諦めきれないレフィに告げたローレルの静かな意思表示だった。
「ここ……?」
「お腹いっぱいになるまで、フィオの中に注ぐ」
「い、嫌だ!」
アルファであるローレルの精液の量は、見えなくても多いと実感したばかりだ。それをお腹一杯になるまで注がれた日には、番うどころか子供までできてしまう。
「これだけは聞いてあげられない。ごめんね。私の子供を産んで……」
レフィが感じた恐れは間違っていなかった。
知らない男の子供を宿すことへの恐怖と、それを拒みきれないだろうオメガの本能に引き裂かれそうになる。言われた台詞に慄きながらも、ジンッと尻の奥からローレルを受け入れるための蜜が降りてくるのを感じて、本能には逆らえないのだとレフィは知った。『陛下を拒めないの』と母が曇った顔をしていたことを思い出した。あの時、自分は『嫌だったら嫌って言った方がいいよ』と提案したはずだ。まさか自分に返ってくるとは思ってもみなかった。
「大丈夫だ、もっと気持ち良くなるはずだ」
ローレルの低い声がレフィの体を貫いて、同意したようにレフィのペニスがゆるりと勃ち上がった。
「ローレル……」
レフィは目を閉じた。それを了承ととったのかローレルはレフィに口付け、広がった尻の間に指を差し込んだ。
「あ……」
「もう柔らかい……」
ローレルは剣を握る大きなゴツゴツした手をしていた。エルネストがレフィの頬を撫でる時の滑らかな指とは大違いだった。同じようにペンだこがあるのは、剣だけが生業でないからだろう。
知らない人、なのだ。仕事も家族も――。
「んっ……くぅん」
レフィは口を閉じても声が抑えられず、言葉にならない声を上げた。
「フィオ、可愛い」
ローレルがそう思っているのは間違いないだろう。動物が愛しい相手にするように顔を擦り寄せ、レフィの肌を味わうように舐めながら、自分が挿るための場所に一本ずつ指を増やしていった。最終、四本の指を咥えさせられて、レフィはローレルにしがみつきながら涎をこぼした。快感が全身を巡っていく。ローレルの指がバラバラに動くので、レフィは中の感じる場所がどこなのか判断できなかった。
立てた爪の跡がローレルの上半身のあちこちに散りばめられていることに、目の見えないレフィは気づかない。同じようにレフィの身体のあちこちに鬱血の蹟が残されていることにも。
「もう、達かせて――……」
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