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「レフィ? レフィ……お休み。目が醒めたら、続きが待ってる」
発情期は三日もある。いそぐ必要はないのに気持ちが急いている。
エルネストは大きく息を吐いた。
これほど二人の身体が馴染んだのは初めてのことだった。エルネストはレフィの頭を撫でて笑った。これだけ情を交わせば疲れが見えるレフィの顔にも微笑みしかみあたらない。
「番だからと甘えてはいけませんね」
レフィの亡き母を思い出す。エルネストはレフィの母からオメガのことや『運命の番』について教えてもらった。亡き父への不満を漏らしていただけだが、いい勉強になったと思う。そうでなければ、エルネストは『運命の番』だからとレフィに対してもっと優位に立とうとしていたはずだ。
番は平等であるべきだとエルネストは結論づけた。それを言えば、アルファもオメガも皆が笑うだろうとわかって
いるから口には出さないが。
「レフィは、私が命にかえても護ります」
抱き寄せると濃厚なダフネの香りがエルネストを包んだ。
まだ発情は始まったばかり、これからもっと獣のようになり、レフィとどこからどこまでが自分か判別できないほど混じり合うのだ。
エルネストは横に置いてあったグラスに水を注ぎ、レフィに口付けた。
「駄目だよ、レフィ。まだ足りない」
フェロモンが強くなればそれだけ思考が情交にしか向かなくなる。だから、国王であるエルネストが頻繁に発情休暇をとるわけにはいかなかった。
「ん……?」
水の大半を口から零し、レフィが目を醒ました。
「ごめんね、レフィ。まだ噛んでないから……」
ムズムズする歯をレフィの首筋にあてると、中に挿ったままのペニスが反り返っていく。
「んぅ? ああんっ!」
噛みつくと血の味がする。レフィの濃縮されたダフネの香りは血にも混じっていて、媚薬の効果もあるのだ。噛まれたオメガも、噛んだアルファも共に身体が敏感になる。
そして、三日三晩二人は身体を求め、貪り、これ以上ないという蜜月を過ごした。
二人が『運命の番』として発情期を過ごして直ぐにキリカが復帰した。
「良かった、キリカ……。傷は大丈夫なのか?」
今日はまだアズとシードもいるからいつもより人が多い。
「大丈夫です。……レフィ様、異常回復で綺麗に治りました」
「傷跡、触らせて?」
キリカのお腹には傷跡が一つも触れなかった。
沢山の血を流した傷でも治るのだ。母も義父が間に合えば……、生きていたのかもしれないとレフィは思った。
「ええ、自分でいうのもなんですが、オメガの異常回復は凄いです」
キリカの笑い声が少し乾いていて、レフィはヒヤッとした。
「異常回復ということは……もしかして?」
「はい、私の番のナイゼルです」
キリカが言うまでそこに人がいるとわからなかった。エルネストもそうだが、ナイゼルも気配を殺すのが得意らしい。
「幼馴染で……上司の?」
「はい、レフィ様。キリカの番でエルネスト様の護衛を務めております。ナイゼルと申します。キリカ、そんなことをレフィ様に喋っていたのか?」」
キリカから話に聞いていたしエルネストからも聞いたことがある男だった。エルネストの身体も鍛えられた騎士という感じだけど、ナイゼルの方が背が高いのだろう。エルネストの声がする位置よりも高い場所から低い声が聞こえる。
「ヘタレの?」
思わず思い出してレフィは呟いた。
「ヘタレ?」
「言ってませんよ」
疑われたままだとキリカが大変そうなのでレフィは慌ててつけたした。
「エルネストが言ってたんだよ」
「ほぅ、名前を偽って義兄ということも隠していた陛下が……?」
ナイゼルの言葉にレフィは笑った。
「主従揃って――ということですね」
やはりキリカの言葉は冷たいというか醒めているような気がした。ナイゼルの苦笑する気配があった。
「アズ! 危ない! お茶を運ぶときはソッと運ばないと――」
キリカが慌ててアズからお盆を奪い取ったような気配がした。
「零れちゃう前に運ぼうと思ったんだけど……」
「アズ、どうして五つもカップがあるのですか。あなたと私とシード様はお客ではありませんよ」
アズは全員分淹れてきたようだ。真面目なキリカはアズと一緒だと疲れるだろうなとレフィは思った。
「……キリカ、俺が頼んだんだ。皆で飲もう」
アズに悪気はない。それに色々話も聞きたかった。
レフィはそう思って言ったのだけど、ナイゼルは基本的に無口で、エルネストの私生活の話を聞き出すことはできなかった。
「俺、エルネストとシードからローレル(月桂樹)の葉の匂いがしてたから一瞬、そういう関係かと思ったことがあるんだ」
本当に一瞬だけど。
シードとナイゼルは揃ってお茶を噴き出した。アズは大笑いしている。キリカはこめかみでも押さえているだろう。
「……シードは暗部という陛下のもつ秘密組織でローレルを名乗っていたので――」
「ナイゼルも偽名とかあるの?」
「……いくつか持ってます。必要に応じて……」
噎せ終わった後、ナイゼルが教えてくれた。エルネストのことを聞くよりハードルが低かった。
「ナイゼル、教えていいのか?」
シードが少し焦ったように訊ねた。
「いいと言われている。陛下の番となれば知らないわけにもいかないだろう」
エルネストが大事なことを教えてくれるつもりだったと知ってレフィは嬉しくなった。
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