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夜になると、みやちゃんは空を見上げます。きらきらと光が輝いているのを眺めるのが好きなのです。その光の色はさまざまで、光の揺らぎ方もさまざまで、見上げるたびに違う夜空がそこにあるのでした。まるでお星様の大合唱です。
「きらきらひかる」
「よぞらのほしよ」
ふふ、とみやちゃんは笑います。そうしてぱたぱたと両手を伸ばして、光の位置を確かめます。
今日のお空は大都会でした。空に近い屋上の四隅に赤い航空障害灯がチカチカと点滅しています。それを囲むように四角い窓からこぼれる白色灯が集まっていて、星雲のようです。星雲と星雲を結ぶように伸びた帯は道路でしょう。光がゆっくりと移動しています。車が走っているのです。流れ星みたい、とみやちゃんは目を輝かせます。
「この間のお空は山の中だったのよ」
みやちゃんは笑います。
「街灯がぽつぽつとあってね、お山がネックレスをしているみたいだったの。ロープウェイのてっぺんの赤い光が妖怪のお目々みたいでね、裾野にある小さな集落を狙っているみたいだったの」
「そうなのね」
「そうなのね」
「そうなのよ。きっとあの大都会は今、冬なのね」
きらきらとみやちゃんが笑えば、きらきらと星達も笑います。
「きらきらひかる」
「よぞらのほしよ」
「まばたきしては」
「みんなをみてる」
きらきら、きらきら、光りながら星達はみやちゃんの手を取ってくるくると踊ります。くるくる、くるくる、踊っているうちに星達の並びは冬の夜空から春の夜空へと変わったようです。
「今日のお空は大都会」
「昨日のお空は山の中」
こいぬ座のアルファ星だったおとめ座のアルファ星が歌います。
「きらきらひかる」
「よぞらのひかり」
しし座のベータ星が続けます。
「てんめつしては」
「ちきゅうをてらす」
出番を終えたおおいぬ座のアルファ星がみやちゃんの横で眠そうに歌います。この星は他の星と比べてはるかに眩しいですから、冬の夜空でしか輝けないのです。きっと今にコクリコクリと船を漕いで、次の冬まで眠り続けることでしょう。
「きらきらひかる、よぞらのひかり」
みやちゃんは夜風のような綺麗な声で歌いました。星達とくるくると回って踊って、そうして駆け出しました。こと座の近くにいたいくつかの星達がみやちゃんを追って走り出して、やがて流れ星になりました。
この場所はみやちゃんの大好きな場所です。星がたくさんいて、ひとりぼっちのみやちゃんと一緒に夜空になってくれるからです。地球の人々はみやちゃん達を見上げて方角を知り、季節を知り、時間を知り、目を楽しませます。みやちゃんも地球の上の人々が照らす光を眺めて星座ごっこをするのです。
ぱたぱたとみやちゃんは近くにあった川辺へと走り込みました。川には名前のわからない小さな小さな星達がみっちり集まっていて、みやちゃんの足が川へちゃぽんと入るとパラパラキラキラと飛び散って、そうしてさらさらと流れてはみやちゃんの足をくすぐるのでした。ひやりと冷えた白い星達の川はみやちゃんのお気に入りです。あたたかな太陽や物静かな月も好きですが、彼らの近くにいると星達が見えなくなってしまうので頻繁に会いにはいけません。けれど、きらきらと賑やかな星達とみんなで川辺で遊ぶのも悪くないものです。
「きらきらひかる」
「よぞらのほしよ」
みやちゃんは浅い川の中をあちらへこちらへと舞うように駆け回ります。みやちゃんがぱしゃんと跳ね飛ばした星のいくつかが流れ星になりました。いくつかは星座になっている星に近付いて星座の一部になりました。くるくるとみやちゃんが回れば、くるくると夜空全体が回ります。そうしているうちに星座はほどけて離れて、次の夜空へと並びを変えるのです。
「きらきらひかる」
「よぞらのほしよ」
ふと。
「きらきらひかる、よぞらの君よ」
みやちゃんのではない声が歌を歌いました。星達の声でもありません。かすかに、けれど確かに、その声はみやちゃんに聞こえました。
知っている声です。みやちゃんの大好きな声です。はっと顔を上げれば、みやちゃんのいる川の中に白鳥が降り立ちました。
「宮様」
川の星に囲まれながら尾の先をアルファ星のように輝かせて、白鳥はみやちゃんを呼びます。
「お越しですよ」
誰がでしょうか。いいえ、みやちゃんを訪れてくれる人なんてただ一人しかいないのです。
サァッと星達が移動を始めました。春の夜空がまたたくまに夏の夜空になりました。どこからか琴の音色が聞こえてきて、鷲がみやちゃんの頭上を超えていきました。
「姫宮」
振り返った先で彼は笹の葉を手に微笑みます。昼間の空のような青い衣の裾がふわりと風に揺れます。葉にくくられた色とりどりの短冊がさらさらと涼しげな音を奏でます。
「夏が参りました。一年に一度の、今日が参りました」
みやちゃんは駆け出しました。みやちゃんが跳ね飛ばした星はやぎ座の元に集まって、みやちゃんが彼に抱き着いた瞬間に一斉に走り出しました。
夜空いっぱいに流星群が飛び行きます。
「お待ちしておりました!」
彦星の肩に顔を埋めて、みやちゃんは笑いました。みやちゃんがこぼした涙は彗星になりました。
おめでとう、と木星が言います。おめでとう、と土星も言います。太陽の近くから金星がおめでとうと叫んできた声も聞こえました。
「おめでとう」
「おめでとう、宮様」
「めでたい」
「めでたいね」
「今日は七夕だ」
夏の夜空が大合唱を始めました。
「ささのはさらさら」
「のきばにゆれる」
「おほしさまきらきら」
「きんぎんすなご」
星達の歌はみんなの輝きをいっそう眩しくさせます。その夜、地球の人々はこれ以上なく美しい夜空を見ることができるのです。
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