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王女の自覚
デザートとは、食後に食べる果物のこと。まだ、「お菓子」という存在がなかった時代に、とある国の王女として可愛い女の子が生まれた。その名はエミリー。何故、この名前をつけたのか不明だが、名付け親は祖父、前王だった。
エミリーは、幼少時期から何でも興味を持つ好奇心旺盛な女の子。性格は非常に明るく、心の優しい女の子。しかし、欠点と言うか、長所と言うか、1つのことに夢中になると、周りが見えなくなり、両親を困らせていた。
エミリーは5歳から11歳までは、専属の家庭教師が付き、礼儀作法、学問、国のこと、この世のことを学び。王女は13歳から王女としてのお仕事が待っている。但し、12歳はその準備期間が与えられ、制限付きだが自由に行動できる。この1年間は、勉強はしなくてもよい。
本日、エミリーは12歳の誕生日を迎えることになり、この日がくるのを幼い時から待ち望んでいた。
実は、この城の決まりとして、王女は12歳になる迄は、世間に顔を見せることを禁止しており、城内から一歩も外に出ることはできない。当然、友達もいない。
そんな中、唯一友達というか、エミリーの話し相手でもあり、よき理解者が1人いる。それは、前王だった。
城内では、誕生日のお祝いとお披露目の儀式の準備で大忙し。
一方、王女の部屋では、お披露目用の衣装に着替え。王妃はその姿を見に部屋に来ていた。
「エミリー、12歳のお誕生日、おめでとう」
「お母様、ありがとうございます。今日から私は、城の外に出られるのですね。本当に、ここから外に出てもいいんですよね?」
「もちろん。出られますよ」
「ヤッター!」
大喜びで、部屋の中を走り回るエミリーは、今日からやっと城の外へ出られる喜びに、友達もいっぱいつくりたい、いろんな場所にも行きたい、その夢が叶う。
大喜びするエミリーを嬉しそうに見つめる王妃。ふだんの王妃なら、「王様に叱られますよ」、と言うところだが、今日は大目に見ていた。
エミリーは少しおてんばのところがあるが、笑顔が可愛い女の子。
そろそろ誕生日のお祝いとお披露目の儀式が執り行われる時間になり。エミリーは、何処となく寂しそうな表情で窓の外を見ていた。
「お母様。お祖父様は、帰って来なかったね!?」
「そうね。新しい食材を探しに夢中だから……」
王位の座を息子に譲った前王は、趣味の料理研究に没頭する日々を送り。新しい食材を探しに出かけると、2ヶ月くらい帰って来ないこともあり、誕生日に帰って来ないことも何度かあった。しかし、今日は特別な日。孫娘の12歳の誕生日なのに前王はまだ帰って来ない。
エミリーは、前王の作った料理が大好き。週1回だけ前王の料理が振る舞われ、とても美味しく、いつも新しい料理ばかり。エミリーは、その料理を食べることが何よりも楽しみ。ただ、王だけは違った。
エミリーは、前王の作った料理を王が食べているところを見たことがない。前王の料理を出す日は、決まって王のテーブルの前にだけ、城内の専属料理人が作った料理が並ぶ。
エミリーは、この光景に疑問を抱いた。何故、王は前王の作った料理を一切口にしないのか。
エミリーは、そのことに対し、一度だけ王に聞いたことがある。それは、前王妃が亡くなってから半年たった、エミリー5歳の時だった。
城内の専属料理人が作る料理は、美味しいのは美味しいのだが、エミリーは前王の作った料理と比べると、若干何かが足りないような気がしていた。
「お父様……。お父様は何故、お祖父様の料理を食べないの? お城の人が作る料理より、私は、お祖父様の料理の方が美味しいと思うけど、何で食べないの?」
今までにエミリーは王に叱られたことは何度もあった。しかし、今まで見たこともない激怒の表情で、王は椅子から立ち上がり。
「うるさい! その質問を二度とするな! わかったな!? わかったら返事をしろ!」
食事の間に怒鳴り声が響き。エミリーは泣き出し。怖くて、怖くて、「はい」と返事をするしかなく。何で怒られているのかわからなかった。
食事の時は、王、王妃、王女、前王、前王妃と一緒だったが、前王妃が亡くなってからは、前王は食事の間で一緒に食事をすることはなくなり。エミリーは、王と前王が会話しているところを一度も見たことがなく、この2人には何かあるのだと思った。
12歳の誕生日のお祝いとお披露目の儀式の時刻になり。エミリーは初めて城以外の人たちに会うのだが、まったく緊張はしておらず、むしろ楽しげな表情をしている。
ファンファーレと共に2階のバルコニーに、王と王妃、エミリーが現れ。大観衆の拍手が鳴り響いている。
「ただいまより、我が王国の王女、エミリー王女様を紹介します。皆様、静粛に、静粛にお願いします!」
すると、大勢の国民が静まり。
「王様より、皆様へ、ご挨拶があります」
王は国民に手を振り、1歩前に出た。
「本日は我が娘、エミリー王女のためにお集まりいただき誠に感謝である……。あの戦いから10年、平穏無事でこうしてお披露目ができることは、皆のおかげだと思っておる……。ささやかだが、皆の者に城の料理を振る舞うことにした。後で、食べるがよい」
盛大な拍手が鳴り響き。
「静粛に、静粛にお願いします……。ただいまより、エミリー王女様から、皆様へご挨拶があります」
その時、王の手には。
「エミリー、この紙に書いている通りに読みなさい」
エミリーは紙を受け取り、そこには、国民への挨拶文が書いてあった。
「こんな読むの? 私には必要ありません。私には私なりの挨拶があります」
エミリーは、挨拶文が書いてあった紙を丸めてポイと外に捨て、王はその態度に何も言わず、エミリーの挨拶が始まり。
「皆さーん! エミリーでーす! 私、この日がくるのをずっと待っていました。やっと、外に出られます……。皆さん、仲良くしてねー! お願いしまーす!」
エミリーは、国民に手を振り、はしゃいでいる。
すると、王はその態度に我慢できずに。
「今すぐ、王女をそこから連れ出せ!」
王は激怒し、家来はエミリーを抱きかかえ、奥の部屋に連れて行った。
この後、国民からは、あれが王女様としての挨拶なのか、と言った声もあった。しかし、まだ12歳だということも国民は十分にわかっていた。ただ、王にとっては、そうではない様子。
「なんだ、あの挨拶は……!? あれほど言っただろうが、王女の自覚を持てと!」
王の部屋に呼び出されたエミリーは、王から説教を受けていた。
「お父様。王女の自覚って何? 教えてよ! 自覚がたらない、自覚をもてって、いつも言ってるけど、そんなに必要なことなの? 私にわかるように教えてよ!」
いつになく王に食ってかかるエミリー。
「お前にはまだ早かったようだな……。王女の自覚がない者を城からの出す訳にはいかない。よって本日から、城からの外出を1年間禁止する。いいな!」
「はぁ!? 何それ? なんでそうなるの……!?」
「エミリー。王女の自覚とはなんなのか、もう一度良く考えなさい!」
「なんで、なんでそうなるのよ……!?」
エミリーはその場に泣き崩れ。12年間ずっと城の中での生活をしてきた。これが当たり前だと思っていた。しかし、5歳の頃から家庭教師がつき、城の外にはいろんな世界が広がっていることを知り、この日が来るのを夢見て待ち望んでいた。その結果が、また、待つ日々を送ることになった。エミリーは、悔しくて、悲しい想いだった。
それから、1週間が経ち。
エミリーは、王とは口も利かず、自分の部屋に引きこもり。毎日、窓の外を見て、前王の帰りを待っている。
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