55.ルクイユのおいしいごはんBLに寄せて※

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55.ルクイユのおいしいごはんBLに寄せて※

【ルクイユのおいしいごはんBL】は、SNS上で行われるタグ企画です。  自創作『えんはいなものあじなもの』よりSSを書きました。  寿一(金型工、50歳)と零(美容師、35歳)のふたり。恋人を気遣う零と、一緒が嬉しい寿一です。  楽しんでいただけますように。 ------------  離婚歴のある五十歳、寄宿学校に通う高校生の息子がいる。  そんな経歴を持つ俺に、同性の恋人ができた。  それだけでも驚きなのに、十五歳も年下だ。  零という名前の容姿端麗な彼が、無骨としか言いようのない俺を笑顔で出迎えてくれる。 「寿一さん、おかえり! 風呂わいてるよ」 「あぁ、ただいま……」  こんなとき、何か気の利いた返事をするべきだとは思う。  だが俺は言葉探しをさっさとあきらめ、風呂場へと向かう。勢いよく作業服を脱ぎ去った。  少しぬるめの湯には疲労回復のための入浴剤がはいっている。良い香りに誘われしゅわしゅわと胸まで浸かれば、思わずはぁと声がでた。  汗を流しさっぱりとした気分で居間に戻ると、ちょうど料理を運び終えたところだった。  俺たちは元々、隣の家に住む者同士だ。  零は、母親が自宅の一部で営む美容室で働いている。近いうちに店を継ぐ予定で、準備に忙しそうだ。今日は店休日だったから、張りきって用意してくれたのだろう。 「ビール飲むでしょ?」  楽しげに問われて頷いた。  座卓の上には大皿に盛られた唐揚げと、カラフルなポテトサラダが並んでいる。揚げたての鶏肉を前に、冷蔵庫にある塩辛と漬け物が脳裏をよぎった。俺は頭に浮かぶものを振りはらい、恋人に向けてグラスを差しだした。  冷えたビールで喉を潤し、唐揚げにかじりつく。食感で胸肉だとわかるが、ぱさつかずしっとりしている。塩味とレモン果汁で食べやすかった。サラダにはたくさんの野菜が入り、ブラックペッパーと酢がきいている。  零が俺の口元を注視しているのを感じた。 『いくら口下手でも、言葉にしなければ思っていないのと同じだからね!』  この場にいない息子の声が、背中を容赦なく叩いてくる。  俺の性格を熟知する一人息子は、会話の少なさが母親と離婚した遠因だとわかっているのだろう。  俺はこほんと一つ咳ばらいをした。 「味付けもちょうどいいし、一緒に食べると、よけいに美味いな」  たったこれだけの言葉が、零には嬉しかったようだ。その顔がみるみるうちにほころんだ。  その表情に心まで鷲掴みにされてしまう。  俺はわきあがる愛おしさで、いっぱいに満たされた。 (了)
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