56.独り立ちなんかしたくない!

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56.独り立ちなんかしたくない!

「その話、一年前に俺も聞いたよ」  背中越しに聞こえる会話に、心の中で割り込んだ。先輩は今年も新入社員の指導担当だ。 「お前はもう独り立ちだからな」  そう言って、俺の肩に触れた手の感触がよみがえる。  後輩の笑い声が聞こえてきた。  きっと、さっきまで泣きそうな顔をしていたのだろう。わかるよ。先輩の失敗談を聞くと、なんだか気持ちがあがるよな。  でも先輩は優しいだけじゃない。駄目だったところも出来ていた箇所も、ちゃんと見ていて自覚させてくれるんだ。  毎日、何をやっているのかわからないような新人時代だった。そんな俺だって、先輩に声をかけてもらえたからなんとかやれた。  なのにさ。 「期待してるからな」  そんなこと言われたら、頑張るしかないじゃんか。 (了)        
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