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57.『○○なヒト。』※
「おまえって、男が好きなヒトだったんだ」
高校の卒業式のあと、俺はシンヤを呼び出して告白した。
された方は困るだろう、とわかっている。案の定、シンヤは目を見開いた。それでも六年間の片思いにけりをつけたい。
「俺はシンヤが好きなんだ。男が好きなわけじゃない」
「へー。で、どうしたいの? あ、セフレ的なやつ?」
シンヤは両手をポケットに入れて顔をそむけた。拒否されてはいないはずなのに、俺は悲しかった。
「そんなつもりはない。ただ連絡先を交換したい。だめか?」
顔をあわせても、おぅと声をかける程度のクラスメイト。俺たちはそんな間柄だ。
だから意を決して声をかけた。
「あー、それなら。でも俺、トークとかあんまりしないヒトだぜ?」
そう言いながらも、ポケットからスマートフォンを取りだしている。気持ち悪い頼みを断らないのが、シンヤらしいなと思う。
連絡先を登録すると、じゃあなと手を振って別れた。
シンヤの両親は家業で忙しい。今日の式に出席していないのは、シンヤがそれでいいと言ったのだろう。急いで帰ろうとするのは、まだ小さい弟が待っているからだ。
中学に入ったばかりの頃、家庭訪問の日程に困っていた顔を思い出す。
俺が隣の席から「無理なの?」と聞いたら「家庭の事情ってやつ?」と苦笑いで答えた。
シンヤは自分のことをよく「○○なヒト」と言う。「○○的なヤツ?」とも。
俺はシンヤのそんな言い方が不思議だった。明るくて誰とでも仲良さそうなのに、自分の本心は見せないようにしていると感じた。笑っているのに、笑っていないような。
目が離せなくなり、プールの授業が始まる頃には好きだと自覚していた。
以来、ずっと「初恋を続けているヒト」だ。
明日からは毎日顔を合わせることもない。
でもいつか、シンヤが気持ちをストレートにぶつけられる相手になりたい。それが恋愛感情
ならうれしいけれど、そうじゃなくてもいい。悔しいとき、寂しいときに気持ちを吐き出せる場所になりたい。
俺は「シンヤを好きなタクト」だ。
(了)
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