0章  プロローグ

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0章  プロローグ

 「ねぇ、あの人かっこよくない?」  朝、通勤ラッシュの時間帯をわずかに過ぎた時間に、そんな囁き声が響いた。  イヤホンを耳に入れ、スマホの画面に視線を落とし、手すりに肘を置き、背中を壁に預けた状態で、静かに電車に揺られる青年。  見ている画面には「紅陽」と書かれた、無料トークアプリのアカウントが見えている。  スラッと長い足、長く細い指、整った顔、短くも長くもない髪。ジーンズに薄い長袖、白いパーカーを身にまとい、口を引き結んでいる。  パッと見は「イケメン」と言うべきだろう。  『まもなく、宮音音楽大学前、宮音音楽大学前。御出口は、右側です。開くドアにご注意ください。宮音音楽大学にお越しの方は、ここでお降り下さい。』  電車の速度が落ちた時、青年はふっと顔を上げ、スマホをジーンズのポケットに仕舞った。  そして電車が止まるや、イヤホンを外しながら、足早にホームへ出て行った。  周りには目もくれぬその行動は、まるで「この世の全てに興味が無い」とでも言っているかのようなものだった。
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