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懐かしい風景の中を、須川家に向かって歩く。
「おっ、あったあった。やっぱり分かりやすいなー。」
赤レンガの家は、やはりよく目立つ。少し汚れてはいるが、それもまた、時の流れを感じるもの。
浮足立つ気持ちを何とか抑え、インターホンを鳴らした。
(あれ?)
留守だろうか。もう一度、またもう一度、何度押しても、誰も出てこない。
家から出る時は、必ず昼でも遮光カーテンを引いていくのが須川家の常識。だが、今窓にかかっているのはレースカーテンだけ。
(いるはずなんだけど……おかしいな。)
もう一度押そうとした時、隣の住人が声を掛けてきた。
「その家、もう空き家だよ。」
「……は? え、今何と?」
「その家、もう7年ほど前に空き家になっているんだよ。売りに出されたわけじゃないんだけど、ガスや水道も止めていたし、誰も帰って来ていないんだ。」
空き家? まさか、ここは両親がオーダーメイドして建てた家。死ぬまで暮らしたいと言っていた家。引っ越すはずがない。
「あの……母と紅陽、じゃなくて、母と弟がここに暮らしていたはずなんですけど……。」
「あぁ……君、紅陽くんのお兄さんか。」
頷くと、住人の顔が曇った。
「須川美琴さんだっけ、あの人、確か亡くなってるよ。うちに紅陽くんのお爺ちゃん達が挨拶に来たからね、間違いない。」
血の気が引いた気がする。死んだ? 母さんが?
「川中日赤病院、1528っていう病室にいた須川美琴さん。紅陽くんが教えてくれた情報だよ。」
頷いて礼を言うと、川中日赤病院へ向かい始めた。嘘だ、母が死んだなんて。きっと……嘘に決まってる。
そう信じながら、ひたすらに足を動かし続けていた。
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