11章 本音

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 「え? 須川美琴さん? 今は……そのような方はいませんね。」  川中日赤病院で応対してくれたのは、若い看護師。今はいない、と言われても、母が亡くなったと聞いた以上、過去の記録を見てもらわないと無理だ。  そう伝えると、看護師が申し訳なさそうに首を振る。  「すみません。個人情報保護の点から、当院では2年ほど記録を保管の上、そのまま処分してしまうんです。」  小さく溜め息を吐いた時、横から年配の看護師が顔を出す。  「待って、この方、誰のことを探しているって?」  「あ、師長……あの、須川美琴さんって方らしいです。呼吸器内科の1528に入院してらした方だそうで……。」  師長と呼ばれた看護師の顔色が変わる。こちらをしばらく見てから、小さな声で問うてきた。  「まさか貴方……紅陽くんのお兄さんですか?」  「え、はい、そうです。兄の勝輝です。弟をご存知なんですか?」  それには答えず、すぐに別室に案内してくれた師長は、向かい合って座るや、暗い表情で口を開いた。  「私は、松宮(まつみや)と言います。その、美琴さんの担当看護師でした。」  息をのむ。なるほど、紅陽に会っているわけだ。  「美琴さんは、7年ほど前、肺癌が全身転移した状態で亡くなられています……ご両親と紅陽くんに見守られて、静かにご臨終されました。」  手を膝の上で握りしめる。やはり、母は亡くなっている。それも7年も前に。じゃあ……じゃあ、紅陽は? 紅陽はどうなったんだ?  「紅陽は……どこに行ったか、知っていますか。」  「あ、はい。美琴さんのご両親ですので、貴方の祖父母に当たる方ですね。そのお二人が、養子縁組にて引き取られたと聞きましたよ。それ以上のことは分かりません、すみません。」  礼を言うと、羽倉家へ向かう。紅陽にどんな顔で会うべきか。ずっとそのことだけを考え続けていた。
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