11章 本音

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 『ピアノをやめさせた方がいいって親父が言ってたんだよ。』  樹の言葉の断片が、ずっと頭の中を巡る。  何ということを……紅陽にとって、ピアノは最後の最後まで続けられたものだったに違いない。あんなに音楽好きだったのだ、生き甲斐にもなっていただろう。  そんな、そんな大切な物を奪おうとしたなど……紅陽にとって、あの家は居場所では無くなってしまったのだろう。  そうなると、だ。紅陽はどこに行ったのだろう。  6年前、ということは、恐らく祖父母が亡くなってしばらくしてから……まだ、中学校1年生だ。さすがに1人で生きていけるわけがない。  (思い出せ、誰が……あいつが頼るとしたら、誰が……)  そこまで考えた時、ふと1人の顔が思い浮かび、足を止めた。もしかしたら、あいつなら……そんな思いが弾け、電話をかける。  あいつが、何も知らなければ……全ての望みが断たれてしまう。  何回目かのコール音が響いた後、その音が途切れた。電話の奥から、テレビらしき音が聴こえてくる。  『おー、勝輝? 久しぶ……いや、今日電話したの、思い出話のためじゃねぇよな。』  あぁ、と思った瞬間、膝から崩れ落ちた。涙が後から後から溢れる。知っているのだ、自分が今電話した理由を。  「水嶌……頼む……もうお前しか頼れねぇ……。」  電話をした相手は、大学時代に唯一出来た親友、水嶌良平だった。  『住所送ってやるから、とりあえず何としてでも来い。全部教えてやるから。』  優しい声に、ここまで救われるとは……何度も礼を言いながら、自分を奮い立たせて、立ち上がっていた。
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